盤上の月 45
(45)
人の心に どんな思惑が渦巻いても、無情に刻は動く。月は夜と共に地平線の下に沈み、代わりに
太陽が明け方の空に現れ、雲を淡い紺紫色にする。
陽が上がった事で、アキラの部屋に朝の日差しが訪れ、翳りは消えて光が辺りに溢れ広がる。
アキラは盤上に うつ伏せになった状態で眠り込んでしまった。
朝日の力強い光がアキラの顔に差し込み、その眩しさでアキラは目が覚める。碁盤から ゆっくり
体を起こし、ガラス窓を開けると、朝の張りつめた冷気が顔に当たり心地良い。
また新たに一日が始まる。
アキラは軽く目を瞑り、小さく息を吐いた。
次の日曜日、アキラはヒカルと約束していたどうりに碁会所に来ていた。
結局、ヒカルからは電話が来なく、この日が研究会だという最終確認も取れなかった。
だからなのか、指定の時刻になってもヒカルは一向に姿を見せない。晴美も遅いわねと
気がかりな様子をみせる。
やはり、きちんと確認しなければならなかったのかとアキラは落胆する。
ちょうど その時、「あら、いらっしゃい進藤くん。アキラくんがお待ちかねよ」と言う
晴美の声が聞こえた。
入り口の方へ顔を向けると そこにはヒカルが立っている。
晴美はヒカルと話している最中、チラッとアキラの方に視線を向けた。アキラはヒカルが来た事に
ホッとしている様子が見え、つい微笑む。
ヒカルは晴美に荷物を預けると、やや間を置きながら ようやくアキラのいる席の方へ足を向ける。
「進藤、遅かったじゃないか? ボクはキミの家に何度も電話をしたんだけど、
いつもキミはいなくて。この前は体調を崩してキミに迷惑をかけてしまって本当にすまなかった」
ヒカルはアキラの問いには答えないで、気難しい表情をしている。何処となく顔は青ざめて活気が
なく、また少しやつれているようにも感じた。
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