マッサージ妄想 45 - 46


(45)
「どや?気に入ったか」
店主の声に我に返った。気づけば身体中が汗ばんでいる。
「う、ウン。・・・・・・オレはこれ、気に入ってんけど」
許可を求めるように隣のアキラを見る。
アキラも片方の湯呑みを手に取りじっと眺めていたが、社の視線に気が付くと振り向いて
ちょっと微笑み、また手の中に視線を戻した。
「そうだね。・・・・・・さっきみたいなのも綺麗だけど、ボクたちにはこういうののほうが合ってると思う」
「・・・・・・え?」
「そうですか。なら、早速包みますわ」
店主はポンと手を打ち鳴らして、小さな箱を取り出し二つの湯呑みを個別に包装し始めた。
「おっちゃん、おかんじょ」
「あー、エエわ」
「あ?」
「普段会われへん友達同士、久々に会えたのやろ?それで切なそうなカオして口とんがらして
対の土産欲しいなんて言われた日には、金なんて取られへんちゅうねん。・・・・・・そっちの
お客さんがいっぱい買うてくれたしな。これはオマケ言うことにしといたるわ」
手際よく包装を終えると、二つの紙袋に入れたそれを両手で差し出し、店主はにっこりと笑った。
「エエ友達やな。いつまでも、仲良うな」


(46)
数分後、二人は店の紙袋を手に夕陽で赤く染まり始めた路上にいた。
「持とか」
「ううん、軽い物しか買わなかったし」
「そか。・・・・・・あのおっちゃん、めちゃめちゃ押し付けがましいけど割とエエ人やったな」
「そうだね」
アキラがクスッと笑う。そのまま何となく会話が途切れて、夕暮れ時の柔らかな風の中を
二人並んで歩いた。
(さっきのこと、コイツはどう思っとるんかなぁ・・・・・・)
店で自分はアキラと対の物が欲しいのだと口にした。店主はそれを厚い友情から出た発言と
取ったらしい。では肝心のアキラは自分の言葉をどんな意味に受け取ったのか。
(たとえば今ここで、オレの気持ち全部ぶつけてコイツの気持ち確かめるゆう選択肢もある・・・・・・)
それが何故かためらわれるのは、夕陽に照らされたアキラの横顔がいつもより遠く感じられる
からだろうか。
たまにアキラが自分を想ってくれているような素振りを見せるたびに、自分は本当に嬉しく
なってしまう。そして互いの気持ちが通い合ったと思える優しい瞬間も確かに存在するのだ。
なのに肝心な時にこうしてぶつかっていけないのは何故なのだろう。
(結局の所オレは、塔矢のこともオレ自身のことも、信じ切れてないちゅうことか・・・・・・)
アキラと対する時、常にどこかに引け目を感じている。
自分は大勢の中の一人に過ぎないのだ。せめて碁の腕がもっと、アキラと対峙するほどに
強かったなら、それがアキラにとっての自分の価値だと自惚れることも出来ただろうか。
今の自分には拠って立つものが何一つない。だから、お前の一番の相手になりたいと、
お前を独占したいと当然の望みを伝えることすら出来ない。
「都合のいい男」でいることに寂しさを感じながら、「都合のいい男」として振る舞うことに
よりアキラに媚びているのは、他ならぬ自分自身なのだ。



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