盤上の月 47


(47)
序盤から中盤に差し掛かる時、ヒカルは目を見張るような一手を放った。
その途端、アキラの目は大きく見開き、盤上に釘付けになる。ヒカルの その一手は、悠久の刻を
感じさせる奥深さがあり、アキラの心を強烈に震撼させる。
そして、背筋がゾクゾクとし、鼓動が高まり闘争心が猛烈に湧き上がった。
──本当に進藤には いつも驚かせられる!
キミはボクの望む以上の碁を展開させてくる。やはり生涯を掛けて共に「神の一手」を目指して
いける人物はキミ以外に他はいない!
こんな碁を知ってしまったら、もう他の者なんて目じゃない。
あくまでも進藤はボクにとってライバルだっ!!

アキラはヒカルに出会えた事を ある者に深く感謝した。
ある者―――言うなれば、それは碁神に。
ヒカルの放つ一手は、アキラの それまでの碁を根底から覆し、新しい視野が一気に広がる。
碁の極意を究める事が、何よりもアキラの魂を満たし、光の海を漂うような恍惚感を味わせて
くれる。
──この快感を一度でも心身に深く体感してしまったら、この世の どんな快楽も目に入らない・・・。
結局、ボクも進藤も死ぬまで碁から離れることは出来ないんだ。ボクと進藤は、碁を通して何処
までも続いている。
進藤の碁に対する姿勢は、ボク自身そのものを投影しているとも言える。碁に対しての思い入れは、
進藤はボクの『写し鏡』であり、お互い相手の心が まるで自分のことのように手に取るように
理解できる。
・・・・・・でもそれは、碁に対してだけだ。

アキラの脳裏にフッと いつかの情景が・・・、雪の中 ヒカルにキスした時の事が甦る。



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