マッサージ妄想 47 - 48
(47)
(オレ言う男は、思ったよりヘタレとんのやなぁ・・・・・・対の湯呑み持てたんは嬉しいけど、
生身のオレ自身はまだちっともコイツに釣り合ってへんやんか・・・・・・あ、マズイ、
めっちゃ落ち込んで来たわ)
無意識のうちに唇を突き出し眉間に皺を寄せて唸っていた社の耳にアキラの声が飛び込んできた。
「・・・・・・社。社?」
「・・・・・・んっ。あ、塔矢。何やねん」
「なんだか難しい顔してるから・・・・・・」
心配そうに覗き込んでくる瞳は不安げに揺れていて、社は胸がキュッと締め付けられた。
(あかん、オレがついてながらこんな顔させてしもて・・・・・・とりあえず悩むのは後や。
こんなことじゃコイツを守りたいなんて言えへんで!)
「スマン、ちょっと考え事しとったんや。新幹線の時間までまだちょっとあるな。夕飯
食っとくか?この辺りなら色々ウマイとこ知っとるで」
「・・・・・・。考え事って?」
「・・・・・・オレ自身の問題やから。アンタはなんも心配せんでエエ。あ〜ホラ、次どこ行こかー!
早よせな、時間なくなってまうでー!」
オーバーアクションで四方の店や通りを指差しながら明るく言ってみたが、その袖口を
アキラがグッと捕らえた。
「社。・・・・・・この際だから、真面目に話したい」
「・・・・・・」
アキラの黒い瞳で真剣に見つめられてしまっては、逆らう術はない。
要求されるままに人通りを避けて、静かな裏通りへと出た。
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「・・・・・・何や」
アキラの背中を見ながら、じわじわと不安が広がっていく。アキラは何を話そうと言うのだろう。
社の目の裏に、先ほど夕陽の中を歩きながらどこか遠く感じられたアキラの横顔が浮かんだ。
自分が単なる揃いの食器ではなく「対」の物を欲しいのだと口にしてから、ぼんやりと群れを
眺めていたアキラ。
望みを口にしたことはやはり失敗だったのだろうか。自分が身に過ぎた望みを抱いていると
知って、アキラは嫌気が差したのだろうか。
「社。・・・・・・初めに言っておくが、ボクはキミのことを好きだ」
振り向きざまにアキラははっきり言った。
だが本当なら嬉しいはずのその言葉を紡ぐアキラの声も眼差しも、何かを思いつめたかの
ように硬く強張っている。
社は瞬時に、手足の冷えるような緊張を感じた。
きっと今から交わされる会話は、自分たちの関係にとってとてつもなく重い意味を持つのだろう。
痛みをこらえるようなアキラの表情に、胸を衝かれた。
――こんな顔を、させたくはないのに。
もしアキラにこんな表情をさせているのが他の人間だったなら、今すぐアキラを抱き締めて
何者からも守ってやるのに。
他ならぬ自分との関係にまつわる何かが、アキラに痛みを与えている。その事実が苦しかった。
真っ直ぐに社を見つめていたアキラの視線がすっと斜め下を向き、少しためらうような間が
あってから言葉が続いた。
「そしてキミも、ボクのことを好いてくれている。・・・・・・そうだろう?」
「・・・・・・ああ。好きや・・・・・・!」
はっきりと答えた。
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