盤上の月 48
(48)
──ボクは もしかして間違ったことをしているのではないのだろうか。
進藤に碁以外のことを求めるのは、それは共に「神の一手」を究めることの妨げになるんじゃない
だろうか・・・・・・。
ボクは ずっと独りだった。
小さい頃から対等に対局出来る人は、お父さんと その門下生の人達ぐらいだった。
独りで碁を打つことが多かった。そのような状況がボクは当たり前だと、また ずっと続くもの
だと思っていた。
そんな時、ボクの目の前に進藤が現れて、ボクの棋力を遥かに上回る力を見せ付けた。
古い定石だったが、その碁は まるで本因坊秀策の再来を思わせるものだった。
自分の目の前に展開される碁に、ボクは ただ心底驚き、そして自分の力の無さを実感した。
そして何より驚いたのは、彼は一度も対局したことが無いということだった。
ボクは そんなことがあるはずがないと激しく思った。どんなに辛くても必死に毎日鍛錬した
結果、今の自分がいるのに、彼は そのようなことは経験なく あれだけの碁を打った。
彼の存在は、碁は日々鍛錬というボクの考えを全て否定した。
その時からボクは他人に強い関心を持った。生まれて初めてのことだった。
一時期は彼の碁に失望した。だが気付くと進藤はボクの すぐ後ろまで追ってきた。
正直、嬉しかった。同じ道を目指す者が、力が同等な者が この世に存在するという事実に。
進藤という一人の棋士に出会えたことは、ボクにとって幸せだと思う。
このまま進藤と一緒に碁を打てば、必ずお互いの棋力を高めあう関係を築ける。
・・・・・・進藤に それ以上のことは望むまい、
ボクは それで・・・・・・充分だ・・・・・。
アキラはヒカルに対しての想いを、自分の心の奥に閉じ込めようとした。
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