盤上の月 51
(51)
「どうしたんだ進藤?」
アキラはヒカルが塞ぎこんでいく様子に気付き、動揺して声を掛けた。
ヒカルは段々 アキラに対して、どうしようもない怒りがムカムカと、一気に込み上げてきた。
自分が真剣に悩んでいるのに、その原因を作った張本人が その事を全然覚えてない。
こんな馬鹿げた事があるだろうか。そんなアキラに振り回されている自分が とても滑稽に見えた。
──フザけんなよっ!? オレは、お前のオモチャじゃないんだっ!
とことん オレのことをバカにしやがって・・・・・・・!!
ヒカルは再び頭を上げ、アキラの顔を真正面から睨みつけた。そして キッと強い視線を浴びせ、
怒り狂う感情を言葉にぶつけた。
「・・・・・・・・て・・る気はねぇ・・・・ぞ」
「進藤?」
「・・・いつまでも お前の背中を見ているつもりはねぇって言ったんだよっ!!」
ヒカルは怒鳴りながらベンチからガタッと勢いよく立ち上がり、アキラを見下ろす。
その途端、ヒカルに真昼の陽が重なり、眩しさのあまり一瞬アキラは目がくらむ。
「塔矢、覚えてろよ。オレは いつまでも今のままじゃねえぞ!
必ずお前を追い越してやる・・・分かったかっ!?」
その様子を静観していたアキラは、無表情で自分の想いを押し殺してヒカルに言い放つ。
「・・・望むところだ。追って来い!」
ヒカルはアキラの言葉を聞くと、一段と表情を引き締める。そしてアキラに背を向けて何も言わず
に勢いよく走り出す。でも、すぐ顔を苦痛に歪めて左腕を押さえるが走り続けた。
ヒカルの左腕には薄いがアザがある。アキラがヒカルの腕を強くつかんだ時に出来たものだった。
ヒカルが忘れたいと思っても、そのアザがアキラとの抱き合った事が実際に起きた出来事だと、
より鮮明に思い出してしまう誘発剤になり、ヒカルの心を いつまでも苦しめる。
「―――畜生っ!!」
ヒカルは腕を押さえながら走った。目には薄っすらと涙を滲ませて──。
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