盤上の月 54


(54)
「えっ、何処にあるの!?」
怪訝な表情をしてアキラは右手を首筋に当てる。
激しい愛撫の痕は首筋の後ろの方にあるので、鏡に真正面に立っても見つけにくい場所だった
ため、アキラは明子に言われるまで自分では気が付かなかった。
明子は心配そうにアキラの側に寄り、首にそっと手を添えながら痣を観察する。
「──よく見ると消えかかっているわ。真冬に虫刺されということはないと思うけど。
でも、お薬つけたほうがいいかしら?」
そう言って明子は腰を上げ、薬を取りに居間を出た。
アキラは明子が居間から出て行くのを見届けて1人になると両目を瞑り、自分の首に手を当て
ながら、懸命に記憶を探る。
首の後ろに痣のようなものがあると知った時、アキラの頭に何故かヒカルの顔が瞬時に浮かんだ。
「ボクは痣のことを言われた時、どうしてすぐ進藤を思い出したのだろうか・・・・・?」

『知ってはいけない! 思い出してはいけない!!』

頭の片隅で危険を知らせるシグナルが鳴り響き踏みとどまるようにと理性に訴えるが、アキラは
それを拒絶した。真実を知りたいという感情が理性を押しのけ、半分霞がかった曖昧な記憶の
断片を かき集める。
──確かあの時、熱を出した僕を進藤が家まで送り、布団に寝かしてくれたところまでは何となく
覚えている。今日、進藤は何度も執拗に「覚えていないのか」とボクに訪ね、ボクが全く覚えて
いないと言うと、怒ってしまった。
進藤がボクを看病してくれた時、何かあったんだろうか・・・・・・・・?
しばらくして脳裏にフッとある場面が横切った途端、アキラの顔色は一気に蒼白となった。



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