マッサージ妄想 57 - 58


(57)
「こんな奴が、誰かとまともに一対一の恋愛関係なんて築けるはずがないよ。世の中には
色んな種類の人がいるだろうけど、その中にはきっと、“対”の相手がいる人といない人が
いるんじゃないかな。たとえば、・・・・・・お父さんには・・・・・・お母さんがいる。ボクが買った
夫婦茶碗みたいに。でもボクは、誰とでもセックス出来るけど誰とも“対”にはなれない。
欲が深くて、淫乱で、・・・・・・異常で、」
「待て、待て、ちょっと落ち着こ、塔矢。男なんてみんなそんなもんやで。オレかて、全然
面識もなければ好みでもないお姉ちゃんが髪掻きあげてるの見ただけでこう、クッと来ること
あるし。同級生かてみんなそんな感じゆうか、もっと全然アホアホやで。色々考え過ぎとちゃうかな」
だがアキラは頑なに頭を振った。揺れる髪の間から涙が光って散る。
「ボクが誰かを好きになっても、ボクがこんな人間だって知ったら、誰だって呆れて離れて行くって。
セックスは出来ても誰とも深くは向き合えない、一生一人の、出来損ないの子だって」
「なんやそら!そんなこと、誰かに言われたんかいな!?」


(58)
つい大声を上げてしまった。
社に手を取られたまま、アキラの肩から腕にかけてが目に見えてびくっと竦む。
「あ、スマン・・・・・・、アンタを怒ったわけやあらへんで。そやけど、その理屈はおかしいわ!
一生一人で出来損ないってなんやねん!なんでそこまで決め付けられなアカンのや」
「・・・・・・」
「誰が言うた、そんなこと」
アキラは俯き押し黙っている。
「今付き合うとる奴の誰かか」
少ない情報量の中から社がまず考えたのは、アキラと関係を持っている男のうちの誰かが、
アキラが自分以外の人間とも寝ていることに腹を立て痴話喧嘩の際にでもそうした言葉を
投げつけたのではないかということだった。
アキラが複数の男と関係を持っていることを知りつつ交際を始めた社でさえ、独占欲が消えて
なくなる瞬間はひと時とてないのだ。
アキラの交際相手の中にはアキラの男関係を知らないまま付き合い始めた人物もいるのだろうし、
そうした人物がある日突然事実を知ったとしたら、怒りに任せてアキラの人格を否定する
ような言葉を投げつけてしまったとしてもおかしくはない。
――自分がアキラにとって一番の存在であり、アキラの最高の笑顔は常に自分一人に向けられる
ものと信じていたのが、ある日突然裏切られたのだとしたら。

だが、社の予測に反してアキラはきょとんと顔を上げた。
「付き合う?違うよ」
「なら、告られ・・・つっても通じへんか。えーと、告白されたのをフリでもしたんかいな」
「いや、そういう相手じゃないってば」
「そうなんか・・・・・・」



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