マッサージ妄想 63 - 64
(63)
アキラは難しい顔で視線を外し、眉を顰めた。
なるべく力強い口調で宣言してはみたものの、社の心臓はまだ強い不安感でバクバク言っていた。
(これでもし、コイツがそれでもやっぱり別れる!言い出したら・・・・・・それでも縋ったら
未練がましい男や思われるやろか。いや、俺がどう思われようとこの際構へん!百歩譲って、
別れるのも構へん!そやけど、コイツが自分に自信持てへんで出来損ないとか思おたまんま
別れるんは、オレかてキツいでぇ・・・・・・)
この際、相手は自分でなくともいい。自分など永遠に忘れ去られてしまっても構わない。
ただ、アキラがきちんと自らを肯定し、人と関わることを恐れないでいられるようになって欲しかった。
食い入るような眼差しで社が見守る中、アキラがゆっくりと顔を上げた。その表情はまだ
どこか迷いを含んで揺らいでいるが、涙は収まったようだ。
普段よりは幾分硬い声でアキラが切り出す。
「社」
「何や」
「ボクは今まで気が動転していたから気づかなかったけど・・・・・・この体勢は、傍から見て
かなり妙なんじゃないか?」
「あ?」
言われてみてハッと気づく。さっき自分の頬を撫でてくるアキラの手を捉え下ろしてから
自分たちはずっと、男二人で手を握り合っているような体勢のまま会話をしていたのだ。
だが、自分の手の中からすり抜けて引っ込もうとするアキラの手を、社は反射的にぎゅっと
握り留めた。
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(う、オレ手の平にいっぱい汗かいとる・・・・・・)
普段は乾燥している手の平が、アキラとの会話で緊張したせいかどろどろに濡れていた。
アキラは不快に思うだろうか。
だがそれでも、今ここで何の答えも得られないまま手を離したらアキラが永遠に自分の手の中
からすり抜けていってしまいそうで、力を緩めることができない。
非難するように見つめてくるアキラの瞳から眼を逸らすこともできない。
「先に返事聞かせて欲しい。・・・・・・オレ、これからも塔矢の側におってエエ?」
見つめあったまま、静かな一瞬があって、アキラがすっ・・・と顔を背けた。
(ダ、ダメちゅうことかぁ――――――!?)
のけ反りそうになる社をよそに、アキラは横を向いたまま、怒ったような低い声で言った。
「・・・・・・ボクが嫌だって言っても、そうするんだろ」
「え?」
「もう決めたって、言ったじゃないか。だったらボクが返事なんてするまでもない、好きに
すればいい。・・・・・・いや、そんな言い方はフェアじゃないな。つまり、ボクが言いたいのは、」
アキラがこちらに向き直り、真っ直ぐに視線を当ててきた。
「・・・・・・その、ボクはまだ混乱していて、こうするのがいい事なのかどうかわからないけど、
でもキミがボクを好きだって言ってくれて本当に嬉しかったし、ボクがキミを好きだっていう
のも本当なんだ。だから、もしキミがまだ、ボクの側にいてもいいと思ってくれているなら」
話しながらアキラの顔が見る見る赤く染まり、それと同時に照れ隠しのように眉間に皴が寄っていく。
「これからも・・・・・・」
そこまで言って、耐えかねたようにアキラは目を伏せ、息をついた。
それからまたキッと顔を上げ、キラキラとした強い瞳で見つめてくる。その瞳の中に今は
自分一人が映っている。
「社。・・・・・・これからも、よろしくお願いします」
手を繋いだまま、改まって一礼したアキラの頭が、社の心臓の真上にコツンと触れた。
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