マッサージ妄想 67 - 68


(67)
社は明日学校がある。
明朝、同級生の家に寄って制服を貸してもらう手間も考えた結果、その日は昨夜の旅館から
数駅乗り継いだところにあるこぢんまりとしたビジネスホテルに宿を取った。

「・・・・・・ウン、そうさせてもろたら助かるわ。ほな、よろしく。・・・・・・え?誰と一緒やったかて
エエやんか。・・・・・・あーウン、へへ、まぁそんな感じやけど。あーわかったわかった、
今度奢る!おーごーる!ほならな」
早口で携帯を切って、ベッドの上でほーっと溜め息をつく。
(塔矢、まだ電話しとんのやろか・・・・・・)
社が自宅の留守電と同級生の携帯に連絡している間、アキラも一晩帰宅を遅らせることを
自宅に電話しようとしたが、携帯の電波が悪いからと外に出て行ったまま帰って来ない。
シーンとした部屋の中に一人でいると今日一日の間にアキラと交わしたやりとりがぽつぽつと
浮かび上がってくる。
(・・・・・・とにかく!とりあえずは一歩前進や)
アキラの悩みや、その悩みの大元となっているらしきアキラの本性を、現時点で自分が
完全に理解出来ているとは思わない。
だが互いの本音を吐き出し合ったことで、以前より確実に絆は深まっているはずだと思った。
足りない分はこれからまた埋め合わせていけばいい。自分がアキラを好きでアキラも自分を
好きだと言ってくれている以上、努力次第で何とでもなりそうな気がした。
(そうなるとやっぱり、たまにしか逢われへんゆうのが痛いけど・・・・・・でももう暫くしたら
夏休みやし、そしたらオレが東京に逢いに行ってもエエしな。そや、離れてるゆうても
新幹線で数時間で行ける距離や。何とかなる!)

それにしてもアキラの帰りが遅い。心配になりかけた頃、ドアをノックする音が響いた。


(68)
中からドアが開いて部屋に足を踏み入れたアキラだったが、そこにいるべき相手が見当たらない。
「・・・・・・?」
不思議に思って辺りを見回そうとした矢先、ドアの影に隠れていた社に後ろから不意打ちで
抱きすくめられた。
「あ、」
「お帰りー!なぁなぁ、今の気づかんかった?びっくりした?」
古典的なイタズラで子供のようにはしゃぎ頬を擦り付けてくる社に苦笑しながら、アキラは答えた。
「びっくりしたよ、少しだけね。・・・・・・電話はどうだった?事後承諾みたいな形に
なっちゃったけど、親御さんやお友達はいいって?」
「家には留守電で友達んとこに泊まるって入れといた。友達も、まぁ、だいじょぶや。
塔矢はどやった?・・・・・・アレ、塔矢ちょっと目ぇ赤くなってへん」
横から覗き込んだアキラの目の縁はかすかに赤味が差して、普段なら青いほどに澄み切った
白目の部分が少し充血している。
「え、赤い?そんなことないと思うけど」
アキラが顔を背けて拳で目を擦ろうとするのを押さえ、両手を捉える。その両手が普段よりも
冷えていた。まるで泣き腫らした目を水で洗い冷やしてからこの部屋に戻って来たかのように。
「・・・・・・もしかして、もう一晩泊まる言うてお父さんかお母さんに叱られた?」
「いや、少し目が疲れてて水で冷やして来たから、赤いとしたらそのせいだろう。大丈夫だよ」
「・・・・・・」
「社。・・・・・・あんまり気を遣ってくれなくていいから。今夜もキミといられるだけでボクは嬉しいから」
釈然としない顔の社にアキラは爪先立ちで軽く口付け、「ね?」と子供に言い聞かせるように
微笑んだ。その微笑みに、仄かな寂しさが胸をよぎらないわけではないのだが。
「・・・・・・そやな。オレも、アンタと一緒にいられるだけで嬉しいわ」
無理やりにでも微笑んでみせて、社はアキラを抱き締めその首筋に顔を埋めた。
ゆっくりと顔を傾け、首筋と耳の後ろに舌を押し付けるようにして刺激すると、
先ほどの路上での反応を繰り返すようにたちまちアキラの身体が震え、甘い吐息が洩れ始める。
そのままそこに服を脱ぎ散らかして、すぐ横の浴室へと移動した。



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