盤上の月 7
(7)
引退してからの行洋は力を抜いた自然体で過ごしているようで、そして以前よりいっそう碁に
全身全霊を傾けている感さえあり、威厳がまた増したとアキラは感じた。
「お父さんが そう言うならば戴きます。あと緒方さん すみませんがボクは
熱燗ちょっと苦手なんです。」
「そうか、じゃあ何なら飲めるんだい?」
「冷酒なら好きです。たまに お父さんの晩酌に付き合うことがありますから。
じゃあ神亀酒造の“ひこ孫『純米』三年原酒”があれば それを戴きたいなあ。」と
アキラはニッコリ微笑んだ。
それを聞いた緒方と芦原は思わず互いに目を合わせ、芦原はピューと口笛を吹き、
緒方は「こりゃ、大物になるな。」と苦笑した。
仲居が運んできた冷酒をアキラは ごく自然に飲んでいるのを見て芦原もどれどれと味見をした。
「うっ コレかなりキッツイぞ アキラ! おまえなあ、味覚ぐらい子供らしくしろよっ!!」と芦原は目を白黒し水を飲んだ。
「そんなにキツイですか? ボクは ちょうどいいけど・・・。」とアキラは不思議そうに言った。
「なんか口直しに食わなきゃキツイなあ。」と顔をしかめながら芦原は部屋を出入りしている仲居に向かって、
「あのーすみません、なんか甘い物とかありますかあ?」と聞いた。
「甘いものでしたら、葛きり・あんみつ・和風パフェがございます。」
「じゃあ、和風パフェ下さぁ〜い!」と芦原が満面な笑みを浮かべて言った。
それを聞いたアキラと緒方はドッと笑い出した。
「おまえパフェはないだろ、パフェはっ!」と緒方は腹を抱えてククッと笑いが止まらない。
「えー、そんなにおかしいですか? オレ結構店で頼むんですけど。」
「おまえ 女とうまくいかない事が多いってよくボヤくが、もしかして そういう幼稚なところが原因じゃないのか?」
「えー、そうですかねぇ。」と ひどく困惑した表情をする芦原を見てアキラは また噴出した。
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