マッサージ妄想 7 - 8


(7)
(あ〜、ええ眺めや・・・・・・)
自然と口元が緩むのを抑えることができない。
大きく裾が割れたままの浴衣からすんなりと伸びたアキラの脚は疵一つなく、磨き抜かれた玉のように
つややかな白さで社の目を楽しませる。
(綺麗やなあ・・・・・・こんな綺麗な脚がこの世に存在してええのやろか・・・・・・なんや触り心地も気持ちええなあ・・・・・・)
二人が風呂から上がってかなりの時間が経っている。
体温の下がってきたアキラの脚はマッサージのために熱の籠った社の手よりも幾分ひんやりとして、
肌理の細かいその表面は思わず頬擦りしたくなるほど滑らかだった。
先ほどの喘ぎ声によって呼び覚まされた煩悩はまだ社の中でブスブスと音を立て燻っていたが、
日頃は何かと尊大で手強い印象のアキラが今こうしてしどけない姿で無防備に横たわり、安心しきったように
自分に脚を預けているという状況はそれはそれで美味しいような気がして、この綺麗な脚の持ち主に
獣のごとくむしゃぶりついて襲い掛かりたい衝動と、この穏やかで信頼に満ちた一時を少しでも長く
守りたい気持ちとがせめぎ合っていた。
ただ頭の中をどれだけの妄想が駆け巡ろうと、アキラの側から誘われない限り行為を強要するつもりは社にはなかった。
アキラが自分と出会う以前から複数の男と関係を持っていることは知っている。だがそんなアキラを
取り巻く男たちの中で彼の信頼を最も受けているのは自分だという自負があった。
アキラを抱き、乱れさせることが出来る男はたくさんいても、こんな風にアキラから信頼され、安らがせてやれる男はそうはいない。
その矜持が社の理性を辛うじて繋ぎとめていた。

「社、本当に上手だね・・・・・・。こういうの、ちゃんと習ったことがあるのかい?」
少し眠気を含んできたような声でアキラが言った。
「ん?ああ、ガキの頃にな。親父がよく家に呼んどった整体師のおっさんがいて、そん人に少し教わった」
「ふうん・・・・・・」
チラッとアキラがこちらを見たようだった。


(8)
少年時代の社がマッサージを覚えたいと思ったのは、社一家が関西に移り住んで間もない頃、生まれて
初めて整体治療を受けた父が「身体が軽くなった」と先生相手に喜んでいるのをドアの影から覗き見て、
自分もあんな風にお父さんを元気にしてあげたいと思ったのがきっかけだった。
その頃父は慣れない土地に転勤したばかりで新しい人間関係や仕事上の問題を抱え、相当疲労していたらしい。
元からあまりべたべた引っ付くタイプの親子関係ではなかったが、引っ越してからは余計父が不機嫌そうに
疲れた表情でいることが多くなって、親子の会話は減る一方だった。
新しい友達のことや学校のこと、最近見つけた面白そうなおっちゃんたちの溜まり場のこと。
父に報告したいことはたくさんあるのにそれが出来ない寂しさを感じていた社少年は、ある日意を
決して駅前にあるその先生の治療院を訪れた。
「オレを師匠の弟子にしてくださいっ!」
と少年漫画のノリでいきなり土下座された先生は初め困惑した様子だったが、事情を聞くと笑って、
セイタイは坊やにはまだ難しいから足の揉み方を教えてあげる、と言ってくれた。
だが先生から伝授してもらったマッサージでお父さんを元気にしてあげるという当初の目的は結局
果たされることはなかった。
その頃、本格的に碁を習いたいという社少年と父との間で衝突が起こり、なんとか碁会所に通うことは
許してもらったもののオレがマッサージしてあげるなどと言い出せる雰囲気ではなくなってしまったからだ。
父との仲が険悪になり始めた代わりに、あの面白そうなおっちゃんたちに先生直伝のマッサージを
試してやるとおおいに喜ばれた。
「清春、また頼むわ。最近また足腰がしんどおてかなわんのや」
「なんやこんなオッサンらの汚い足を嫌がりもせず丹精込めて揉んでくれるんやから、清春はホンマに
気の優しい子ォやのう」

それらは少し甘酸っぱい思い出だが、他の誰かに語って聞かせるほどのことではない。
だからアキラにも言う必要はないと思った。



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