マッサージ妄想 71 - 75
(71)
社の言葉に反応して開いた目は快楽に甘く潤み、普段よりも充血している。
その赤さはやはり、愛戯の興奮と体温の上昇のせいだけではなさそうに見えた。
複雑な気持ちが湧いて起こる。
(やっぱりさっきのは絶対、泣いた後の目ぇやと思うんやけど・・・・・・コイツ何で泣いとったんやろ)
そして何故今、さっきまで泣いていた事などなかったかのようにこうして快楽に身を任せて
いられるのだろう。泣いた理由は自分に明かさないままで。
やはり自分はまだアキラのことを理解できていない、と思う。
そしてアキラも自分のことを完全には頼ってくれていない。
それでも。
「なあ、塔矢」
「ん・・・・・・っ」
内腿をゆっくりとさすられながら呼びかけられて、返事なのか喘ぎなのかわからない声を
アキラが返した。項垂れたその表情はつややかに湿った髪に覆い隠されて見えない。
「アンタ、やっぱホンマに淫乱で、好きモンで・・・・・・」
手の中のアキラの脚がピクリと動く。
「オレのこと好きやゆうても、東京帰ったらまた他の奴と寝まくるんやろな。・・・・・・いや、
帰ってからに限らへんわ。帰りの新幹線の中でだって、隣に男が座ったらきっとそれだけで
カラダ熱くして、」
アキラが泣き声のような溜め息を洩らし緩慢に首を振る。だが少し手を滑らせて腰骨の辺りを
撫でまわしてやれば、途端に白い身体がビクンと跳ね上がり悲鳴のような嬌声が響いた。
「今やってこうして、オレに何言われてもちょっと体つついてやればエッロい声出して・・・・・・
アンタのそういうとこ、やっぱ憎たらしいわ。肝心な部分でオレのこと頼ってくれへんのも
寂しいし、腹立つし、・・・・・・そやけど、」
片手でアキラの片脚を抱いて泡まみれの白い太腿に頬を伏せ、空いた手でアキラのもう片方の
脚をそっと撫でる。
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「そやけど・・・・・・好きや。優しいとこも腹立つとこも、全部・・・・・・」
肉体は熱く滾り立っているのに不思議と胸の内は穏やかだった。
アキラの抱えるものが自分には見えなくても、その見えない部分も全部ひっくるめて、
今目の前にいてくれる丸ごとのアキラを愛しいと思った。
だが社のその言葉が、アキラの身体に異変をもたらした。
「・・・んっ・・・・・・く・・・・・・っ!う、う、・・・っ、」
「・・・・・・。塔矢?」
突然ガクガクと大きく痙攣し始めたアキラの腿から驚いて顔を上げると、アキラは首から上を
薔薇色に染めて両手を浴槽の縁に突き、全身を痙攣させて何かを堪えている。
(え?エーと、これは・・・・・・もしかして・・・・・・)
「塔矢。塔矢、だいじょぶや。な?我慢せんでエエ」
膝立ちになりアキラの頬を両手で包んでやるが、アキラは固く目を閉じたまま激しく首を
振って社の手を払った。
そのままアキラの手が自らのモノに伸びようとする。咄嗟に身を起こし、アキラの両手首を
掴んでパン!と壁に押し付けた。自分でも何故そんな行動を取ってしまったのかわからない。
ただ愛おしさと驚きと嗜虐心がない交ぜになったような強い衝動が込み上げて、
その先に来るものを誤魔化さず見せろとアキラに強いるような心情だった。
動揺したようにはっと潤んで見開かれたアキラの瞳と目が合う。
「・・・塔矢・・・」
その眼差しも表情も心に焼きつけながらコツンと額を合わせ、手首を掴んでいた指を
移動させて、強張り震えるアキラの指としっかり絡め合わせる。
小刻みに震えるアキラの吐息が近い。
その唇に己の唇をそっと触れ合わせてから、アキラの耳の中へ注ぎ込むように囁いた。
「・・・・・・好きや」
途端に感極まったような甘い呻きが細く長く浴室に響き、アキラの今日まだ一度も触れられて
いない陰茎から社の腹部へと、叩きつけるように白い迸りが飛び散った。
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「・・・・・・っ」
がくんと倒れ込みそうになるアキラの重みを支え、壁に手をつく。それから社は視線を下ろし、
自分の腹部から胸の下辺りにまで飛び散ったものを眺めた。
(エーと、これはやっぱり・・・・・・オレの言葉に反応してこうなった言うことやな?)
驚きと共にじわじわと嬉しさが込み上げる。
さんざん脚を弄ってアキラを昂らせた後ではあったが、少なくとも今自分は愛撫らしき行為を
ほとんどしていなかった。アキラの到達を促したのは紛れもなく自分の言葉だろう。
肉体の快楽ではなく、気持ちの上でアキラを到達させた。
自分の深部から出た言葉が、アキラの深部まで届いた。そう思えた。
「塔矢」
子供のように弾んだ声で顔を覗き込もうとした時、俯いたアキラの耳が真っ赤に染まり
固めた拳がプルプルと震えているのに気づいた。・・・・・・恥ずかしがっているのだろうか。
そう思うとまた要らぬ嗜虐心が頭を擡げる。
ウー、エヘンと咳払いで喉の調子を整え、アキラの手足をぴったりと壁に押さえつけて
再び耳元に唇を寄せた。
「・・・・・・塔矢」
わざと低い声で甘く囁いてやるとそれだけで腕の中のアキラの身体がびくんと反応する。
社の意図を悟ったアキラが逃れようと腕を突っ張ってくるのを無視して更に強く押さえ込み、
耳の中へと注ぎ込むように低く囁く。
「・・・・・・好っきやねん・・・・・・」
途端にアキラの身体がゾクリと震えて、次の瞬間社の肩に鋭い痛みが走った。
「う、あたたっ、・・・と、塔矢!?」
アキラが首の根元に近い部分に噛み付いているのだと気がついた。
次いでアキラは「くっ」と唇を噛み締め唯一自由に動かせる頭を振るって、社の顎に強烈な
頭突きを食らわせて来た。
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思わず後ろに二、三歩よろめいて顔を上げると、押さえつけから解放されたアキラは
自らも頭突きによってダメージを受けたのか一秒ほど額を押さえ目を閉じていたが、やがて
首から上を真っ赤にして、怒りの形相でこちらを睨みつけた。
「塔矢・・・・・・突然何するねん!」
「それはこっちの台詞だ!キミはボクをからかって楽しいのか!?」
「か、からかってなんかあらへんで!オレ、ホンマにアンタのこと好きや。それを正直に
言うて何が悪いんや、もー」
多少嗜虐心に突き動かされた部分もあったことは棚に上げて抗議する。
「・・・・・・だからって、あんな言い方をすることはないだろう?あんな・・・その・・・、
・・・・・・とにかく、キミがそんな事ばかりするならボクはもう出る!」
「えっ待ち、出る言うたかてまだ泡も流してへんし、危ないでってホラ!」
「あっ」
泡まみれの足で踵を返そうとしたアキラがツルリと滑り顎を浴槽の縁に打ちつけそうに
なるのを、すんでの所で支えた。
「・・・・・・」
「言わんこっちゃない。・・・・・・だいじょぶか」
「大丈夫。・・・・・・ありがとう、社。・・・・・・」
助けてもらった手前それ以上出て行くとも言い出せず、膝立ちで浴槽の縁につかまったまま
言葉を探している風なアキラを背後から軽く抱きすくめた。
アキラは抗議するように一瞬身体を強張らせたが、構わず腕に力を込めると諦めたように
緊張を解く。そのままふうっと重心を移動させて、こちらの身体に背を凭せかけてくる。
拒絶の意志はないと感じた。
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「・・・・・・すまなかった」
アキラが小さな声で言った。
「ん?」
「肩と顎・・・・・・」
「エエよ、オレもちょっと意地悪やった。ゴメン。・・・・・・あれでアンタも頭痛くしたやろ。
だいじょぶか」
こっくりと頷いてまた社に背を凭せかけ、アキラは深々と溜め息をついた。
蒸気と汗で濡れたアキラの背の感触が、昨夜湯の中にいるように抱き合った記憶を
鮮やかに喚び起こす。
「恥ずかしかったんだ」
アキラが唐突に言った。
「ん?」
「さっきの・・・・・・。キミの言葉だけで、その・・・・・・自分の身体があんな風になってしまう
なんて思わなかったから。恥ずかしくて、逃げ出したかっただけなんだ。キミの言葉が
嫌だったとか、そういうわけじゃないんだよ」
声を詰まらせてそれだけ言うと、アキラは耳を赤く染めて俯いた。
「ウン。・・・・・・そやけど、アンタは恥ずかしかったかも知れへんけど、オレは嬉しいで。
何かこう、気持ちが通じ合った感じがするやん」
自分はまだアキラを理解できていないし、アキラも自分を完全には頼ってくれていない。
それでも時折はこうして気持ちが通い合ったと思える瞬間が確かにあって、
それを積み重ねながら自分たちは少しずつ進んで行くのだろう。
昨夜から今日にかけて。そしてこれからもずっと。
(あ、なんか今めっちゃ挿れたい言うか、カラダ繋げたい気分かもやわ)
「なぁなぁ、塔矢。・・・・・・あのな、今日は口でしてもらうの無しで、このまま後ろほぐして
挿れさしてもろてもエエ」
振り向いたアキラは一瞬渋い顔をしたが、切羽詰った社の顔と目が合うと、ちょっと目を
眇めてから頷いてくれた。
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