マッサージ妄想 9 - 10


(9)
「・・・・・・社、これお父さんにもやってあげたことはある?」
不意に聞かれて、社は驚き顔を上げた。
見るとアキラは枕に頭を預けたまま、微笑んでこちらを見つめている。なんだかとても静かで優しい表情だった。
「・・・・・・いや、あらへん」
「そう」
次第に眠気が勝ってきたらしいアキラの声はどこか舌っ足らずな甘い響きを持っている。
ゆっくりな瞬きを繰り返しながら、アキラは一言一言考えるように区切りながら言った。
「・・・・・・ボクはこんなに、上手に出来ないけど・・・・・・小さい頃お父さんに喜んでもらいたくて、あと
お父さんの側にいたくて・・・・・・よく肩を叩いたり、足を揉んだりしてあげてたんだ。・・・・・・子供の小さい手だし
実際にはそんなに気持ちのいいものじゃなかっただろうけど、それでもお父さんは喜んでくれて・・・・・・
だから・・・・・・」
穏やかで控えめなアキラの視線が社の顔にそっと向けられる。
「社もお父さんにこうしてあげたら、お父さんきっと喜ぶと思う・・・・・・」

言葉が出なかった。
こちらに向けられたアキラの眼差しは優しくて子供のように澄み切っていて、その眼差しの前では
自分たち親子の確執もつまらない意地も、かすかな古傷の痛みも、何もかもが許され浄化されるような気がした。
「喜んで・・・・・・くれるやろか。あん頑固親父が・・・・・・」
「気持ちは伝わると思うよ。・・・・・・だってボク今凄く気持ちいいし、・・・・・・社の優しい気持ちが伝わってくる・・・・・・」
――清春はホンマに、気の優しい子ォやのう。
瞬間、ジワッと涙が溢れそうになる。


(10)
やり直せるのだろうか。今からでも。
棋士として昇りつめてこれがオレの力や、どうや!と誇示して認めさせるだけでなく、
自分はいつでもどんな大喧嘩のさなかでも父に何かしてあげたくて、喜んで欲しくて認めて欲しくて、
それどころか自分は今までに一度だってアンタが嫌いだったことなんかないのだと、伝えられる時が
来るのだろうか。
本当のところはそんなに上手くいくかどうかわからない。
しかしアキラの言葉にはいつも不思議と、ああきっとそうなのだろうと人を納得させてしまうような力があった。
それはアキラ自身がどんな困難にも屈せず全力で道を切り拓いていく力強さを備えているせいかもしれないが、
他の人間が言ったら理想主義の奇麗事に聞こえるかもしれないような言葉でも、アキラが言うと
不思議な説得力を持って響いた。

「なあ、塔矢、」
しみじみとした思いで顔を上げると、アキラは瞼を閉じてスースーと規則正しい吐息を立てている。
(って、寝とるんかーい!)
心の中でツッコミを入れながら、目を閉じたアキラの美しい顔に見入った。
(そうやな・・・・・・アンタの言う通りかもしれん。意地張っとってもなんも始まらへんわ。あん親父の
ほうから折れるなんてことあり得へんのやから、オレのほうが大人になって足でも何でも揉んだらな
あかんのやろな。そや。今すぐやなくても、きっといつか・・・・・・)
眼下に目を遣れば、そこには相変わらず白いアキラの脚が艶めかしくさらけ出されて男を誘っている。
強い未練とそれを抱きかかえて舐めあげたいような衝動が湧き上がるのを抑えて、社はもう一度その
綺麗な脚を目に焼きつけると身を屈め、紺の浴衣の裾を取って宝物でもしまうように再びアキラの脚を包もうとした。

その瞬間、ガッと下から上へ、顎に鈍い衝撃を感じて社は一瞬何が起こったのかわからなかった。



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