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four
「よせ、このクソガキ……!」
拓海は啓介の罵声など意にも介さない。思いの他器用な手つきでジーンズの中にするりと手を忍び込ませ、下着の上から触れてきた。
いくらなんでも、こんな子供に襲われたりでもしたら、末代までの恥である。啓介は拓海の体を押し退けようと上体を起こした。
が、勢い余って、拓海の体までもベッドの下に転がり落ちてしまう結果になってしまった。
結構凄い衝撃音がして、拓海のかん高い呻き声が後に続いた。
「あ、悪い、大丈夫か?」
「痛え……なんでさっきから……こんなひどいことばっかすんの……?」
「お前が馬鹿なことばっかするからだろ……!」
「おれなんにもしてないのに、触ってきたのはそっちだろ」
それを言われると、返す言葉がない。一方、拓海は俯き、再び瞳を潤ませている。
「おれ……なんか成長遅いみたいで……そういうのにも詳しくないし……ちょっと不安なんだ」
「そーか?
オレもお前くらいの歳の時は発育そんなもんだったぜ」
「だから、見るだけでいいよ。それで満足するから」
啓介は迷った。
このくらいの年齢は、性に対する興味を覚え始める時期だ。啓介が接してきた拓海はどうにも淡白すぎる傾向があったが、十二才の拓海が性に興味を持つことに何ら不思議はなかった。第一、煽ったのはこの自分だ。
「……分かったよ。見るだけでいーなら見せてみるよ。減るモンじゃねーしな」
「ありがとう。ついでに縛っていい?」
「は!?」
「だって、すぐ暴力振るうんだもん。たまんねーよ」
拗ねて見せる拓海だったが、そればっかりは許可できない。啓介は首を横に振った。
「嫌だ」
「おれのこと、信用してないの?
おれのこと好きだって言ったくせに……」
「だから、それとこれとは何の関係も……」
「父ちゃーん!」
拓海が急に声を張り上げ、啓介はぎょっとした。
「こいつ、変態だよ!
おれのこと、むりや」
「だ、黙れ! いいから、黙ってろ!」
啓介に唇を塞がれながらも、拓海は無邪気に微笑んだ。
「じゃあ、縛ってもいい?」
「……お前な」
前科がある啓介はそれ以上何も言えず、諦めの境地で好きなようにさせてやった。タオルで腕を一纏めにされたが、子供の力で縛ったものなど、すぐに解くことができるだろう。
本来の拓海にこんなことを強制されたらとても許せはしないが、何しろ目の前の拓海はまだ小学生だ。そのことが啓介に幾らかの余裕を与えていた。
すっかり衣服を剥がれた啓介は、まな板の上の鯉よろしく、拓海の無遠慮な視線に晒されていた。
「あんまりジロジロ見てんじゃねーよ」
「減るもんじゃないんでしょ?」
……言質を取られ、啓介は沈黙するしかない。
拓海は、啓介の雄に指を這わせた。確かめるように触れ、軽く握り込む。
「大人って感じ」
「まーな」
あくまで余裕のある受け答えをしてやっていた啓介は、次に拓海の指が滑った場所に驚き、体を跳ね起こそうとした。
「お前、そこは関係ねえだろ」
「なんで?
だって、ここに入れるんだろ?」
あどけない仕草で小首を傾げ、拓海は軽く入り口を弾き、何度かその部分を確認するような動きを見せる。
「馬鹿っ……」
「ゆび、中に入れていい?」
「駄目に決まってるだろ!」
「おれの、いつもここに入ってるんでしょ?
指くらいどうってことないよね?」
「お前……ッ」
啓介の許可を待たず、拓海の細い指が内部へと沈み込んだ。予想もしていなかった刺激を、啓介は声を殺して耐える。
一度指を奥まで収めた拓海は、今度は好き勝手な方向へとその関節を折り曲げ始めた。
「狭っ……。すごいね、こんな所に入るの?」
「あの、な……っ、いいから、抜け……よ」
少しずつ要領を掴んできた様子で、拓海は指の腹を肉壁に擦り付けるようにして蠢かせた。
「は、っあ」
性感帯を直接撫でつけられた啓介は、溜まらずに唇から吐息を漏らしてしまった。それをじっと見ていた拓海は、またひとつ、要らぬ学習をしてしまったようだ。
「……ここが、気持ちいいの?」
「っあぁっ、や、バカ、やめ、」
啓介の膝裏に手を掛け、その部分がよく見えるように脚を折り曲げさせ体勢を固定させながら、拓海は突き入れた指を何度も抽送させた。昇り詰める段階をきちんと把握している大人の拓海とは違い、この拓海は容赦なく感じるポイントを攻めてくるものだから、余計にたまらない。
啓介の声が一際高くなる場所で拓海は指を止め、ぐいぐいとその部分を押してくる。前立腺を絶え間なく弄られ、啓介は強烈な刺激に体を跳ね上げた。
「だんだん開いてくるんだね。……もう一本、入れていい?」
「ぁあっ、っん」
子供というのは残酷な生き物で、啓介という新しい玩具を手に入れた彼は、興味が示すままに行動を開始した。微肉を突付き、擦り上げ、啓介の声が甘く融ける部分を重点的に弄ぶ。
耐え切れず、啓介は腕の戒めを解こうと力を込めた。が、きつい結び目はびくともしない。尚更焦った啓介が体を捩ろうとした時、それを見越したかのように、内壁を爪の先で引っかかれた。ビク、と体が反りかえる。
こんな子供の前で醜態を晒すことに対する恥辱は勿論あったが、もう体が自由にならなかった。先ほどとはまるで逆の立場。啓介は屈辱に唇を噛み締め、知らず上気する頬をシーツに押しつけた。
せめてガキの手によって達してしまうことだけは回避しようと、きつく瞳を閉じる。
勢い良く再奥を突いた後、拓海は啓介の体内に収めていた指を引き抜いた。淫猥に濡れそぼる指を唇に含み、まるで子猫のように舌でぴちゃぴちゃと舐めてみせる。
「啓介さんって、可愛いね」
変声期を迎える前の拓海の声にそんな言葉を投げ掛けられ、啓介は自分の体温が上昇を告げたのを察知した。
勿論、啓介が知っている拓海と同じ声ではない。同じ姿でもない。けれど、本能的な感情が拓海という存在に寄せる想いを加速させていた。
「ここも反応しまくってる。早くいきたいんだ?」
前立腺からの刺激だけで勃ち上がった啓介の雄、先端から滲む体液を指の腹で軽く拭った拓海は、笑っているようだった。
「いいよ。啓介さんがいくところ、見たい。してみせて」
「なに……言って……」
「そのために、腕、前で縛ったんだ。できるだろ?」
「-------!」
啓介は、鈍器で頭を殴られた時のようなショックを覚えた。
何てことだ。拓海は最初から、啓介を好きに嬲るつもりだった。そんなことに気付かず、彼のしおらしい演技に騙されてむざむざ縛られてしまうなんて、自分がいかに甘かったかを、啓介は再確認した。
先ほど啓介にされたことが、余程腹に据えかねていたのだろう。負けず嫌いなその性格は、この歳からすでに健在だったのだと、拓海の笑顔を見ながら思い知る。
子供だと思って油断していた。
(こいつが、一方的にやられるタマかよ。そんなこと、オレが一番良く知ってたのに……チクショー!)
啓介はほぞを噛んだが、すでに後の祭りである。
「お前、汚ねーぞ!
見るだけとかほざいてたじゃねーかよ!
しかもこういう知識全然ねえとか言ってたくせに!」
「バッカじゃねーの?
今時、十二才にもなってセックスもオナニーも知らねえわけないだろ。第一、先に手を出したのはそっち。簡単にはめられたのもそっち」
「て、てめえ!
ぶっ殺すぞ、このクソガキ!」
「父ちゃーん!
変質者がおれの体をさわりまく」
「待て、待てよ!」
拓海に働いた悪戯を文太に吐露されたら、自分は鑑別所行きだ。それだけはまずい。
「やれよ。見ててあげるからさ」
子供特有の残忍な笑みを唇に描き、拓海は言った。
敗北だ。彼の前ではいつも、自分は敗北してばかりだ。
すでに充分な熱を持った自身に不自由な指を絡め、戸惑いがちに動かしていく。脈打つ下肢に一対の視線が集中していることに嫌でも気付かされ、余計に意識してしまう。
「ぅう……」
「いつもこうやってしてんの?」
「黙って、ろ」
鋭い視線を向けられても、拓海は一向に動じない。
その彼の双眸が見つめる中、自慰を強制されられている啓介はできる限り声を殺し、この屈辱的な時間が少しでも早く終わるようにと、機械的な動きで自らを高めていった。
さんざん弄られたせいで、早くも先端は薄く涙を流している。縛られただでさえ腕は上手く動かせないのに、その滑りのせいで、余計に思うように行かない。
(もう……こんなの、冗談じゃ……)
根を上げた啓介は、縋るものを探すように視線を巡らせ……自分の姿を凝視する拓海に出会う。
淫らな光景をじっと見詰めているその幼いふたつの瞳。その存在を再確認した途端、体が震えてますます動きが鈍る。
普段の自分なら、峠にいる時はいざ知らず、それがベッドの中でのことならとっくに助けを求めていただろう。「助けて、藤原」と。だが、いくらなんでも小学生の拓海に懇願するなんて、自尊心と倫理が許さない。
「っ、……っふ」
「つらそうだね」
近付いてきた拓海を跳ね除ける余力もなかった。
しっとりと汗を滲ませた啓介の首筋を掠め、拓海はその唇の上をそっと舐めた。
「キス、教えてくれるんだろ?」
「う、っん、……っ」
唇を、記憶のそれより小ぶりの唇で塞がれて、そのままゆっくりと体重を掛けられる。啓介と拓海の体重を受けてベッドが緩く軋んだ。
この体勢では、上から降ってくるキスから逃れることができない。啓介は目蓋を閉じ、口内に入り込むぎこちない彼の動きに感覚を預けた。舌を絡めると、すぐに拓海も応じてくる。歯の裏側を辿り、唇全体を愛撫すると、向こうも負けじと噛みついて来た。
その濃厚な交わりに、小学生とのキスである事実を忘れ、いつしか啓介は己の起立に添える手の動きを早めていた。
「はぁ、んっ……」
「ここ、感じるんだ?」
口付けが途切れ安心したのも束の間、胸の突起を軽く噛まれて、啓介の背が弓なりにしなった。何時の間にそんなことを覚えたのか、拓海はむしゃぶりつくようにその場所を口に含んだかと思えば、今度は舌の先で突付いてくる。
「っぁ、そ、こは、いやだ、藤原っ……」
「あっという間にかたくなってきた。すげー」
「ぁあっ、っあ、ぁあっ」
弱い場所をしつこいくらい蹂躙され、最早嬌声を抑えることができない。
徐々に下降を遂げていく拓海の舌先が脇腹部分を掠めた。
「っつ、ぁっ」
自分でも驚くほど体は過剰反応を示し始めていた。
ビクビクと媚態を揺らす啓介を眺め下ろし、拓海は目を細める。それは、年若いながらも確実に雄の本能を宿していて……自分を翻弄する天才ドライバーの拓海と同じ目をしていたから……全身が総毛立つ感覚に揺さぶられ、高揚に拍車がかかった。
下半身に満ちる疼きが際限なく肥大していき、小さな刺激にも過敏な動きを見せてしまう。こんなことは普通ではないと頭では分かっているが、体がその理性を裏切り出していた。
「う……」
眩しさを覚え、啓介は瞳を開く。
学習机のライトの電源を入れた拓海が、ベッドに戻ってくる姿が視界に映った。
「お前、なに……」
「だって、暗いとよく見えないから」
拓海の言葉を理解するまで、半ば意識の飛んだ啓介の脳細胞は少しの時間を有した。
ようやくその意図を掴めた時、啓介は余りの羞恥に全身を駆け巡る血液が沸騰しそうな感覚すら覚えた。
「やめ、ろ……、ふざけ、……っ」
「真っ赤になって、パクパクしてるよ。魚の口みてー」
「やぁっ……っあ」
太股の内側を軽く食まれ、非難さえさらわれる。
照明の光に煌々と照らされた下肢の中心をまじまじと覗きこまれ、さらに吐息を吹きかけられるともう駄目だった。
「見るな……頼むから、見る、なよ……」
腕を折り曲げ、顔を隠しながら啓介は涙声を出した。
相手は子供だ。こんなに簡単に陥落しただなんて、笑い話にもならない。
「なんで?
啓介さんのここが、おれの指飲み込むところ、ちゃんと見たい」
「ぁあっ!」
微笑混じりの子供の声がしたと思った次の瞬間、さんざん焦らされたその場所に強く指を突き立てられ、今度こそ弾む息を抑制できなかった。
すっかり啓介の体を攻略してしまった拓海は、熟れた肉壁をまさぐる。ずぶすぶと抵抗もなしに異物を受け入れた蕾みは、その先の快楽を強請って貪欲な締め付けを見せていた。
「っふぁっ、っあ、っつ、ん、っ」
どうかしてる。自分は本当にどうかしてる。
現在の年齢で言えば十ほども違う、体格も自分より一まわりも二まわりも小さな子供相手に、脚を開いて喘いでるだなんて。
でも、こんなに体に体が熱くなるのは、姿形はどうであれ、相手が拓海だからだ。拓海以外の誰にもこんなことは許さないし、もしもこんな目に合わされることがあったとしても、その時は舌を噛み切って死んでやる。
「……っは、っく、っあぁっ」
自身が流す愛液が流れ落ち、拓海の指を咥えこんでいる場所をも滴らせていく。おかげで、拓海が穿つたびに卑猥な音色が奏でられた。静寂を保つ室内には、心臓の鼓動と濡れた水音しか響かない。
「エロい声。いつも、おれにこんなことされてんの?」
「やっ……ふじわ、ら……ぁっ」
「いつもどんなことされてんの?
言って」
「っん、……っの、中っ……」
「なに?」
自分を犯しているのが少年であることなど、すでに忘却の彼方に消し飛んでいた。拓海。藤原拓海。彼の存在に寄せる激しい想いしか、肉欲に塗り潰される脳裏には浮かんでこない。
羞恥と悦楽の最中、啓介は震える唇を開き、狂ったように言った。
「お前の、指……っ、で、中まで……、され……っ」
「どんな風に気持ちいいの?」
「お前、の骨ばった指のっ、関節で入り口んとこ、入ってくるのが、すげー、いいっ……、っふぁっ」
「それだけ?」
「っ、奥ま、で……、されんの……、が、気持ち、い……、っ」
言葉さえまともに喋れなくなった啓介は、乱暴に指を押し広げられてその衝撃に仰け反った。
自分を内部から陵辱するその指は、いつも啓介をそうしていた拓海のものとは比べ物にならないくらい細く小さな指であったが、拓海に触られているあの瞬間を思い描き、啓介はあられもなく声を上げ続けた。閉じることのない唇から、溢れ出す唾液がシーツを濡らす。
衝動が暴れている。怖いくらいに拓海を求めて甘く昂ぶっている。
すべてがショートしてしまいそうな、強烈な感覚だった。
「ふじわら、ふじわらっ……」
「うん」
「やっ、もう、いきた……っ、頼むから、もっ……」
「啓介さん……」
自分を呼ぶその高い声を、細胞に染み込んでいる七年後の彼の低音に重ね合わせて、啓介は灼熱の波に融けた。
フジワラ………。
隣で眠っていた気配が動き、啓介はまどろみから覚醒した。
全身を気だるさが襲う。
カーテン越しに降り注ぐ朝日の眩しさに閉口し、ようやく啓介は重い目蓋を持ち上げた。
「おはよう、啓介さん」
数回の瞬きのあと、啓介は布団から飛び起きた。
すっかり忘れていたが、そういえばここは過去で、この世界の拓海はまだ小学生なのである。しかもその拓海と、自分は昨晩……。
自己嫌悪に陥り項垂れた啓介を不思議そうに眺め見て、拓海は爽やかな声で言う。
「おれ、これから学校だから。早く帰ってくるから、待っててね」
「あ、そっか、そうだよな……。あ、うん、行ってこい……」
歯切れ悪く返答しながら、啓介は部屋を後にしようとする背の低い拓海を呼び止めた。
「その……昨日は、ごめん。オレ、ひとりだけ……」
いや、謝るのはそこじゃないだろう。さらに落ち込む啓介に、拓海は柔らかい微笑みを返した。この時代の拓海の笑顔をまともに見たのは、初めてかもしれない。
「いいよ。だって、今のおれのじゃ満足できないでしょ?」
「藤原!」
「行ってきます」
大して寝ていないくせに、あの軽やかな足取りは何だ。
釈然としない気持ちを持て余しながら、啓介もまた、階下に降りて行った。
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