白と黒の宴3 13
(13)
「でもさー、合宿ってなんかイイよな。オレ中学の時とかそういう機会なかったから。」
そんな風に無邪気に笑顔で話すヒカルに、思わずアキラは苛立った。
「進藤、言っておくけど、…北斗杯の対局はきついものになるよ。合宿前に出来る限り
相手の棋譜を見ておいた方がいい。」
「言われなくても分かっているよ。韓国の洪秀英とか、強くなってんだろうなあ。」
ヒカルはそう答えたが、やはりアキラにはその時点でのヒカルは何となくどこか変に余裕を
持っているように見えた。
「何だよ、まだ何か言いたそうだな。」
ヒカルもアキラとの付き合いが長いだけあって、アキラのそういう視線には
敏感らしかった。
「…いや、」
言葉で説明出来るものではない。
「社と会ったら電話をもらえるかな。駅まで迎えにいくから。」
「大丈夫だよ。お前ン家言った事あるから。もー。お前心配し過ぎだよ、塔矢。」
アキラはため息をつくと鞄から手帳とペンを取り出し、そこに地図を書き込んだ。
「一ケ所工事で通れなくなっているところがあるんだ。夜だと分かりにくいだろうし、
ボクの家まではこの地図の通りに来て欲しい。…何かあったらすぐ電話をくれ。」
本当はヒカルが社と夜道を二人で歩く事自体がアキラには不安だった。
工事しているというのは口実で、なるべく人通りのある道を通って来させたかったのだ。
「…もしかして、オレが社と浮気するとでも思っているのか?」
悪戯っぽく上目遣いなヒカルの表情がアキラの目の前に寄せられてきて、軽く二人の
唇が触れ合わされた。
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