白と黒の宴3 56 - 60


(56)
そのまま直ぐにヒカルは目を閉じた。
ただ本当に隣で眠るだけのつもりのようだった。
そんなヒカルの横顔を見つめながらアキラの喉元までヒカルに事情を問う言葉が
出かっていた。が、止めた。
今夜はこのままただ眠る事を優先させた方がいいと思った。
「…へへ、この布団、塔矢の匂いがする。」
目を閉じたままそう言うヒカルに、アキラは右手をそっと近付け、
手の甲をヒカルの目蓋の上に乗せた。
「…なんだよ。」
ヒカルが体をアキラに向けて目を開け、右手でシーツに押し付けるように
その手を握った。
互いに黙ってしばらくそうして見つめ合った。
やがてヒカルの指がアキラの指を一本一本なぞり始めた。
その指はアキラの手の平、手首へと移動し、腕そして肩へと薄い夜着の上から
アキラの存在を確かめるように動いていく。
ヒカルが体を起こすのとアキラが両腕をヒカルに差し出すのとほぼ同時だった。
ヒカルの体がアキラの体にほぼ重なるように覆いかぶさり、
2人の唇も深く重ねられる。
上から蓋を被せるようにヒカルはアキラの唇を塞ぎ、片腕をアキラの脇の下から背中へ、
もう片腕で頭を抱え込むようにしてきつく抱きしめた。
アキラも両手でヒカルの肩と首を抱きしめた。ヒカルの体重がアキラの全身に馴染んだ。


(57)
このままヒカルと一体化してしまいたいとアキラは望んだ。
長く、熱いキスだった。
求めるようにアキラが歯列を開くとヒカルが舌を滑り込ませて来た。
アキラも夢中でヒカルの舌を吸った。
ヒカルのまだ乾ききっていない前髪がアキラの額に触れかかってくる。
キスを交わしながらヒカルの呼気が荒くなっていく。
「…塔矢…オレ…」
アキラの体の上で、ヒカルの中心が熱を持って昂っているのを感じた。
心臓が激しく鼓動するのがはっきりと聞こえる。
「ごめん!…オレ、何か変…」
ヒカルはアキラの体を抱いていた両手を片方ずつ離してシーツにつくと、
体を離そうとした。
「最近変なんだ…塔矢の事考えると…寝る時とか…、」
「進藤…」
アキラはそんなヒカルの頬を両手で包んだ。
アキラの心臓も激しく鳴り響いていた。
ヒカルがいつになく激しく興奮し欲しているのは明らかだった。
嬉しかった。自分がヒカルに抱いた不安がそんなヒカルの言葉と行動に掻き消えて行く。
ヒカルが何か張り詰めたものを抱えているのは確かなのだろう。
ならば少しでもそれを紛らしてあげたいと思った。
自分も、解放されたかった。


(58)
「…進藤がしたいようにしていいよ…。」
アキラのその言葉にヒカルは目を見開き、まじまじとアキラを見つめた。
促すようにアキラが首を立てに振ると、ヒカルは息を飲んで少し震える手で
アキラの夜着のボタンを外しにかかった。
手元が暗く、小さなボタンがもどかしそうな、不器用な手つきだった。
それが全て外し終わると同時にアキラはスタンドの明かりを消した。
まだ残っている痕跡を見られないために。
そんな理由とも知らず、特に疑問も持たない様子で暗闇の中でヒカルは
自分のパーカーを脱ぎ、アキラから上の夜着を取り払った。
そうして再び2人は直に素肌で抱きあった。
「…気持ちいいや…」
ヒカルが小さく呟く。
互いの胸をぴったりとくっつけ、肩に顎を乗せあって力一杯抱きしめあう。
アキラにはもう慣れた行為であったが、ヒカルにとっては生まれて初めての経験だった。
アキラの心臓が次第に落ち着き、鼓動が穏やかになるのと対照的に
ヒカルの心臓はアキラが心配になるくらいトクトクと激しくなるばかりだ。
「…どうしよう…」
困ったような、助けを求めるような声をヒカルが漏らした。
「この後、どうすれば…」
アキラはクスッと笑うと、ヒカルを抱きしめていた手を動かし、ヒカルの背を
優しく撫でた。ビクリとヒカルが身を震わせた。
「だから、進藤がしたいようにすればいいんだよ…。」


(59)
「う、うん…」
アキラの言葉に頷き、ヒカルが左手をそっとアキラの脇腹に押し当てた。
ごくりと息を飲み、ゆっくりと表面にそって胸まで撫で動かす。
「あっ…」
ヒカルの指が一瞬アキラの胸の突起に触れて、今度はアキラが小さく体を震わせ
声を漏らした。暗闇で何も見えないのでヒカルはもう一度手で探り、
くっきりと勃ちあがったその突起部分を指で捉え、撫でた。
「あ、んっ!…」
ただそれだけの行為に、アキラの全身が粟立ち、ゾクゾクと震えた。
「何か…かたちが変わって来てる…塔矢のここ…」
ヒカルも興奮と好奇心を押さえられないようだった。
「…前に塔矢、棋院会館の廊下でオレのここに触っただろ。お返しだよ…」
アキラの胸に頬をつけて、ヒカルは悪戯っ子のようにアキラの片方の突起を
指で摘み、弄ぶ。そうしながらもう片方を口に含んだ。
「ん、くう…っ」
ヒカルの愛撫は、相手に快感を与えようとするというより、仔犬が乳を吸うように、
ただひたむきにスキンシップを求めようとする類のものだった。
そんな行為にアキラの体はアキラが自分でも戸惑うくらいに反応した。
「はっ、…っ、…んっ」
部屋の外に声を漏らすわけには行かず、アキラは自分の手の甲を口に当てた。
そして片手は頭の上に伸ばし、ヒカルにもっと自分を与えようとするように
胸を反り上げた。


(60)
ヒカルも本能的に自分の股間をアキラの下肢に擦り付け、快楽を得ながら
アキラの反応を更に引き出そうとするように指と口での愛撫を左右交互に繰り返す。
ヒカルの指が、舌が自分の体の上を動いている、それだけでアキラは
雲の上を漂うような恍惚感に包まれていた。
それは何の技術も経験もない単調な動きだったがアキラは満足だった。
何度緒方や社に抱かれても得られなかった高揚感と充実感があった。
「…く、…あ…っ、んーっ」
抑えても抑え切れない喘ぎ声が切れ切れにアキラの喉から漏れ、アキラは
我慢出来ず身を捩った。
「なんか…塔矢、かわいい…」
ヒカルが嬉しそうにアキラの体に両腕を回して力一杯抱きしめて来た。
興奮が頂点まで高まった勢いのままアキラのズボンを下着ごと引き下ろし、
自らも全てを脱いで全裸になった。
そうしてまた抱き合うと、またさっきまでと全然違う感触に浸れた。
無意識のうちにアキラは両足を大きく開き、ヒカルはその間に深く体を入れていた。
下腹部で互いの分身が密接し、熱と脈動を伝えあう。
触れあう部分が増えれば増える程もっと触れあわせたい、結びつきたいと言う
欲求が高まっていく。
ヒカルは少し下に体をずらしてアキラの細いウエストを片手で
しっかり抱くと、もう片手をその開いた下肢の間に這わした。



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