白と黒の宴3 14
(14)
ヒカルと唇を重ねたまま、アキラは目を見開いてヒカルを見つめた。
「?、何驚いてンだよ。」
ヒカルは優しく笑むと、アキラの前髪を少し指で摘んで弄り、辺りを見回して周囲に
人が居ない事を確かめるともう一度アキラに軽く口づけた。
北斗杯予選の後で廊下で強引なキスをした事で、しばらくヒカルとそういう事を
するのをアキラは自粛していた。
あのキスの前に社と、後で緒方に抱かれている。
そんな自分がヒカルにああいう事をするのはやはり許されないような気がした。
もちろんヒカルは次に会った時も特に何事もなかったように明るく話し掛けてくれたが。
「塔矢、…あのさ、」
ヒカルが妙にあらたまったような、真剣な表情でそう呼び掛けて来た。
そのとき足音がして廊下の向こうを棋院の職員が通りかかり、ヒカルは慌てて
アキラから体を離し、手にしていた飲みかけの缶ジュースを呷った。
「とにかく、ここを出よう。」
空き缶をダストボックスに放り込むとヒカルはアキラの腕を引っ張て階段を下りた。
ヒカルと共に足早に駆け下りながら、そのせいだけでなくアキラは胸の鼓動が
高まるのを感じた。さっきのヒカルの表情はいつになく大人びたものだったからだ。
そうして二人は建物を出ると、何処へと言う訳でもなく歩き出した。
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