白と黒の宴3 18
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自宅に戻るとすぐにアキラは社の家に電話を掛けた。電話番号はヒカルから聞いた。
電話口に出た母親らしき相手にアキラは自分の名を告げ、社に取次いでもらおうと
思った。だが、その反応は意外なものだった。
『塔矢?どちらの?清春の碁のお友達?あの子は夜遅くにならないと
帰ってきませんよ。』
つっけんどんな、冷ややかさを感じさせる口調。
「…ではまたお電話します。もしも清春くんがお帰りになったら…」
アキラが言い終わらないうちに電話は切られた。
生まれてこのかた、少なくとも囲碁の関係者の間で自分の名字を名乗る時
何らかの相手側のリアクションがそこにあった。それは尊敬やあるいは羨望が
込められ、多くの機会で敬意を払われる側に自分達は居た。
この様子では、社は母親に合宿の事を話していないのかもしれない。
とりあえず電話をかけるのに非常識とならないぎりぎりまで待って、
もう一度アキラは電話を掛けてみた。
数回コール音が鳴って、相手が出た。
『はい、社です。』
ぶっきらぼうな聞き覚えのある声だった。が、一応念を入れて話した。
社の父親や兄弟の可能性もあったからだ。
「…塔矢アキラといいますが、清春くんは…」
そこまで伝えると受話器の向こうで『あ…っ』と驚くように息を飲む気配がした。
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