白と黒の宴3 2
(2)
早朝に起きて自宅に帰るつもりだったが、先に眼を覚ました緒方によって
再びこうして捕らえられてしまった。
ひところを思うと緒方はずいぶん優しくアキラを扱うようになった。
キスをする時も、アキラを見つめる眼が随分穏やかになった。
本能的にではなく、人が愛情を確かめるための行為としてのsexが与えられるようになった。
ただ、そんな緒方であったが、時々かつて以上の、
氷のような冷たさを通り越し無機質な横顔を見せる事があった。
緒方が桑原に暴言めいた発言をしたという話を、アキラは棋士仲間から耳にしていた。
相手の桑原が特に気にしていないというか、むしろそういう緒方の反応を
面白がっていたそうだが、相性というか、緒方はもう何度も桑原と対局し
破れている。
若手最強棋士の緒方にとっても超え難い壁の存在のようである桑原は、
クセの強い年配の棋士の中でも特に変わったタイプで、
特定のタイトルに強くこだわるが他の場合は興味を示さず手を抜いたりする。
全ての対局に全力で向かい、結果として複数のタイトルを手にした
塔矢行洋とはかなりタイプを異にすると言える。
それとは別に対緒方戦になると露骨に闘志を剥き出しにするのだ。
「緒方さんは随分桑原さんに嫌われたものだ。」
「いや、逆だろ。相当気に入られているんだよ。」
検討会でそういう会話が出た事があった。
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