白と黒の宴3 25


(25)
時折建物の近くを電車が通過する振動音が響く他は音がなかった。
奥で打っていたサラリーマンらが立ち上がり、帰り支度を始めた。
そうして出口に向かう途中で社らの脇を通りかかり、何気なく2人の盤面を
見た一人が首を傾げた。
そしてカウンターの席亭に話し掛けた。
「あの若い子達、始めて結構時間経ったと思おたけどほとんど手が進んどらんな。」
「まだ初めて間もないんやないか?席亭、手ほどきしたったらどや。」
席亭は軽く笑って流したが、彼等の会話を聞いて興味を持ったのかカウンター傍の
客が「どれ」と覗きに行った。と言っても、社の風貌を怖れてか直ぐに戻って来た。
もちろん社は盤面に集中しきっていて彼に視線を向ける事はなかったが。
「…なんや、ごっつう難しい打ち方しとるわ。オレにはよう分からん…」
少なくともその男はサラリーマン等よりは碁が分かるようだった。
「せやけど、あのおかっぱのお兄ちゃん、…ようあんな恐い顔の相手と打てるなあ。」

社は追い詰められていた。
食い入るように盤面を見つめ、どうにかして反撃の糸口を見つけたかった。
侮っていたつもりはなかった。
東の怪物、塔矢アキラ。師匠に呪文のように繰り返されたその名。
アマチュア時代にほとんど公式戦に出て来ないその相手のイメージばかりが先行し、
初めてその棋譜を見たのは対座間の若獅子戦のものだった。
その時社は生涯を賭けて戦う価値のある相手だと確信したのだ。



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