白と黒の宴3 26


(26)
だが今社が感じているのはとてつもない敗北感だった。
アキラとの戦いの印象は、強い、という認識を超えるものだった。
盤面より上、アキラの顔を見るのが怖かった。
鬼神がそこにいる。
石を置く度に次のアキラの一手が、自分に深手を負わそうと今にも切り掛かって
来そうだった。
始めたのが遅く周囲に碁の強い者がいなかった自分と、幼少の時から名人を父に持ち
毎日実戦さながらの碁を打ち続けた、揺るぎようのない才との差だった。
一方アキラも、ある意味自分の中の変化を感じ取っていた。
どんな相手でも全力を出して打って来た。
それでも、自分より上位の者と打つ時の事を思えば明らかに格が下の者と戦う時は
必要以上に叩くような事をしなかった。
ただ今、アキラは火を吐く程に厳しさを持って社を責めたてていた。
恨みからではなく、自分を戒め奮い立たせるためだった。
例えその反動からこの対局の後で社から自分の身に受けるものが激しくなる可能性が
あるとしてもアキラはそうせざるを得なかった。
「…あ…りません…。」
悲痛な声で社は投了した。社とアキラ以外の客は居なかった。
カウンター脇の客らが帰った後、席亭がドアの外に閉店の札を出したのだ。
そうして静かに対局は終わった。
社の宣言を表情一つ変える事無く受けたアキラは黙々と石を片付けると席を立った。



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