白と黒の宴3 30 - 33


(30)
それは濃いもの、薄いもの、何日間に渡ってアキラの体に数多く刻印された
情交の痕跡だった。
「…あいつか。…緒方…」
アキラは返事をしなかった。
ただその事自体に社は特にどうという反応をするつもりはなかった。
自分以外に寝ている相手がいる事は想像していたし、そういう部分でアキラを
束縛するつもりは毛頭なかった。
自分が望んだ時に大人しく応じてくれればそれで良かったのだ。
アキラを性的に支配している者の一人だと、社はそんなつもりになっていた。
だが今のアキラは、自分を見ていない。視線こそこちらに向けているが、
それは社の体を通り抜けて別の空間を捕らえているようだった。
今までの2人の事がまるでなかった事のようなアキラの態度に社は不安と
焦りを感じていた。
「くっ…」
怒りで低く唸ると社はアキラの胸元に顔を寄せ、片方の突起を口に含んだ。
「…!」
ピクリとアキラの体が反応した。
社は突起を中心に広い範囲を口に含み、じっくりと舌で舐め上げていく。
時折歯を立て、甘噛みし、舌で摩り、弾き、吸う。
「…ふっ…う…」
次第に激しくなっていく社の愛撫にアキラが声を発して身を捩り、
社に掴まれた手首の先で手の平を強く握り込んだ。


(31)
そんなアキラの上半身にすがりつくように覆いかぶさり、動きを制して
社は執拗に両の突起を責め立てた。
「んん…っ」
「相変わらず、感度は抜群みたいやな…」
自分が与えたものにアキラが従順に反応する事に社は少し安心し気を良くした。
相手が誰であれSEXを重ねた事でアキラの感覚は開発され、そういう刺激に
敏感に肉体は呼応し、責められれば責められる程快楽に結びつくのだろう。
実際、アキラの肉体は充分刺激に対し明らかな形状の変化を起こしていた。
今後も自分は好きな時にこいつを味わえるのだ、そう社は信じたかった。
だが皮肉混じりの社の言葉にもアキラは表情を変えなかった。
呼吸こそは甘く切なく漏らすが、視線は相変わらずどこか遠くに放たれているままだった。
業を煮やしたように社はアキラの手首を離すと手を下に伸ばしてアキラの
ズボンのボタンを外し、ファスナーも下ろして下着の中に手を入れて探った。
「…?」
違和感を直ぐに感じた。怪訝そうな顔つきでアキラを見つめながらその部分を弄る。
そして体を起こすとアキラの下肢から下着ごと衣類を剥いだ。
緒方によって性毛を処理された局部が露になった。
「…!!」
驚き、食い入るように社はアキラのその箇所を見つめる。
アキラはただ黙って先刻まで与えられた余韻に乱れた息を繰り返し横たわっていた。


(32)
「…なんでや…」
社は唇を噛み締め、手で自分の髪を掻きむしった。
「…これも…あいつやろ…、緒方…、あいつしかおらん…。進藤は…あいつはガキや、
…こんな…こんな事できるわけない…」
まるでブツブツ独り言のように社は言葉をくり出す。
「なんでや…?塔矢アキラが…お前ほどの奴が、何でこんな事させるんや!?
こんな風に…好き勝手に…、緒方は、一体お前の何なんや…!?」
そう言いながら社は手の平をアキラの体に這わせる。
毛を剃られた跡や、その周囲、アキラの体に残る痕跡を辿るように撫でていく。
「お前と緒方との対局も棋譜を見た。お前は間違いなく緒方を追い詰めとった。
緒方とお前の実力にそんなに差はない。いくら兄弟子かもしれんが…、
なんでそこまであいつの言いなりになっとんのや…!。」
社はアキラの腕を掴み、強く揺さぶった。
間があって、アキラはぽつりと答えた。
「…でも、緒方さんはボクに勝った…。」
社が言葉に詰まる。アキラは続けた。
「進藤も、ボクに3度勝っている…。」
「え…!?」
社は信じられないというような表情になった。
敢えて「3度」と言ったのはアキラにとってsaiの正体はヒカル以外の何者でも
なかったからだった。そして、次の瞬間、再びアキラは社を射るように見た。
「…君はどうなのかな、社…。」


(33)
顔色を完全に失ったのは、今度は社の方だった。
「社、東京の碁会所で初めて君と打った時、確かに君の持つ碁のセンスに
感心し、強く惹かれた。君が真剣に打っていれば、あの碁はもしかしたら君が勝って
いたものだったかもしれない。だけど、ボクだって君が本気で向かってきたもの
だったら死に物狂いで勝ちを奪いに行っていた。…もしもあの一局だけで
ボクを手に入れられるつもりになっていたとしたら…、」
「…黙れ…」
色を失った社の唇が震えていた。
「そのつもりになっていたとしたら、それは大きな誤解だとわかっただろう。
今日の一局で思い知ったはずだ。北斗杯予選で本当は気付くべきだったんだ。
ボクにも進藤にも大きく劣るという、自分の実力に…」
「黙れ!!」
社は手の平でアキラの口を塞ぐと、そのまま片手をアキラの下肢の奥に突き込む。
体をアキラの両足の間に割り入れて開かせる。
「っ!!」
社に塞がれた状態でアキラは目を見開き、次に苦痛に表情を歪ませる。
社の指が乱暴にアキラの体をこじ開けて体内に侵入し、内壁を弄りだしたのだった。
そうして2〜3度指を突き入れては抉り、抜き、また突き入れると
今度は社は自分自身の先端を底に宛てがい、力任せにアキラの内部に埋め込ませた。



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