白と黒の宴3 32
(32)
「…なんでや…」
社は唇を噛み締め、手で自分の髪を掻きむしった。
「…これも…あいつやろ…、緒方…、あいつしかおらん…。進藤は…あいつはガキや、
…こんな…こんな事できるわけない…」
まるでブツブツ独り言のように社は言葉をくり出す。
「なんでや…?塔矢アキラが…お前ほどの奴が、何でこんな事させるんや!?
こんな風に…好き勝手に…、緒方は、一体お前の何なんや…!?」
そう言いながら社は手の平をアキラの体に這わせる。
毛を剃られた跡や、その周囲、アキラの体に残る痕跡を辿るように撫でていく。
「お前と緒方との対局も棋譜を見た。お前は間違いなく緒方を追い詰めとった。
緒方とお前の実力にそんなに差はない。いくら兄弟子かもしれんが…、
なんでそこまであいつの言いなりになっとんのや…!。」
社はアキラの腕を掴み、強く揺さぶった。
間があって、アキラはぽつりと答えた。
「…でも、緒方さんはボクに勝った…。」
社が言葉に詰まる。アキラは続けた。
「進藤も、ボクに3度勝っている…。」
「え…!?」
社は信じられないというような表情になった。
敢えて「3度」と言ったのはアキラにとってsaiの正体はヒカル以外の何者でも
なかったからだった。そして、次の瞬間、再びアキラは社を射るように見た。
「…君はどうなのかな、社…。」
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