白と黒の宴3 34 - 37
(34)
アキラの悲鳴を聞いたわけではない。
アキラの上半身に縋り付き、アキラの胸に顔を押し付け、社はただ夢中で突き貫いた。
社自身にも痛みが走ったのだから、アキラが受けた苦痛は相当なものだったはずである。
じんと、先端に鈍い痺れのような感覚を感じながら、社は2度3度とアキラの中を抉った。
アキラの両膝が社の腰を強く挟み込んでガクガクと震えていた。
黙らせたかった。
自分の存在が塵に等しいような言い方をする、体の下に組み敷いたはずなのに
誰よりも遠い存在であるかのような目で見る相手に自分を思い知らせたかった。
痛みを与える事で。
荒い吐息に混じって呻き声が聞こえる。
さすがにやりすぎたかと思い、社はアキラの表情を見上げた。
そして息を呑んだ。
社がそこに見たものは、頬を紅潮させ、苦痛に歪むというようりは、
激しい行為に歓喜し恍惚として快楽に喘ぐ、妖しいほどのアキラの媚態だった。
「はあっ…あ…」
苦痛も当然あっただろう。固く目蓋を閉じた為にアキラの睫毛は濡れて
確かにアキラの下肢は小刻みに震えていた。だが、胸元を仰け反らせて僅かに
腰を浮かせ、更なる動きを社に求めているようだった。
「くっ…!」
社は首を振って激しく腰をアキラに打ち付けた。
(35)
そんなはずはない。アキラは苦しんでいるはずだ。
耐えられない目に合って今に泣きながら「やめて」と許しを乞うはずだ、
社はそう思いたかった。だが。
「うあっ、…あっ…!」
ビクンとアキラの体が強く震え、社の希望に反した反応がアキラの身体に起こっていた。
体を繋げた近くで熱いものが迸る。
「あ、あ…、はあ…っ」
見開いた社の目の前に頂点に達して片手で額に手を起き、切なく吐息を吐き出す
アキラが居た。
髪を頬に張り付かせ、額に当てた手の下で目を閉じ吐息を漏らす唇から赤い舌が出て、
ゆっくり上唇を舐める。そして目蓋が開き、動きを止めた社を見る。
『…どうした…?』
アキラの唇がそう動いた訳ではなかったが社にはそう聞こえた。
『…もっと激しくしてかまわないよ…その方が…』
社は初めて、自分が抱いているその相手の本当の姿をようやく見たような気がした。
『いや、…そうでなければ…今のボクは満足できないんだ…』
涼しげな清らかな表情からは想像出来ない、アキラが内面に抱える闇のようなものの
深さを、色濃さを社は理屈でなく肌で感じた。背筋に冷たいものが奔った。
それでもその相手を、魔物であるかもしれないその相手を社は手放したくなかった。
アキラの胸にしがみつき、夢中で腰を動かした。
(36)
気押されたくなかった。アキラの体のあちこちに残る別の男が残したものを
かき消したかった。
だが社の気負いとは裏腹に、アキラの深部で、社は急速に失速していった。
「…!」
当然それはアキラにも敏感に伝わるはずである。
社は慌てて自分を一度アキラから引き離した。
代りに体を下の方にずらし、再び指を2本その部分に突き入れた。
「あっ…」
思わずアキラの腰が逃げようとするのを押さえ込み、夢中でその奥の、
敏感な部分を強く掻いた。そうしながらアキラ自身の根元を手で捕らえて口で包んだ。
「う…んっ!」
立続けの激しい愛撫にさすがに耐え切れなくなったような声をアキラが漏らした。
だがあくまで両手を身体の脇に投げ出してシーツを握ったままで、
社に対しては無抵抗を通していた。
アキラのモノを喉の奥に押し込み、吸い立てながら社は焦っていた。
今までアキラを組み伏しては来たが、他人のペニスを口にすることには抵抗があった。
もちろんいつか自分のモノをアキラに奉仕させる事を想像した事はあった。
あの美しい顔で命じられるままに自分の股間に這いつくばるアキラを思い浮かべた。
そういう関係にまで持っていく自信があった。
それが、今では自分がこうまでして必死になっている。
役立たずと思われたくなかった。
(37)
詳しい理由は分からなかったが、アキラが自分の中の欲求を持て余し誰かに
縋り付きたがっているのは最初に会った時に直感で感じた。
それにほぼ同時期に、自分とあの緒方が名乗りをあげたかたちになったのだろう。
だが社にはいつか自分が緒方からアキラを奪い切る自信があった。
進藤ヒカルという障壁の存在さえ知らなければ。
今、自分の肩ごしにアキラが見つめている相手は自分でも緒方でもない。
進藤だ。
アキラが見ているのは進藤の棋力であり、進藤と全身全霊で対局するアキラ自身の姿だ。
盤上でどれくらい自分を追い詰めてくれるか、それがアキラが欲していた相手を
選ぶ基準だった。無意識にしていたその選定にアキラが自分で気付いたのだ。
「はああっ、う…んんんっ…!」
夢中で吸い立て内部と外部を責められアキラは急激に2度目の頂点へと追われ
登り詰めた。社は生まれて初めて口にするその苦いものを飲み下した。
その社の目に、白いアキラの内腿にまでいくつも残されていた赤黒い痕跡が映っていた。
その表面が汗ばみ、戦慄いて震えているのを見て社の内部が高まり、
再び社は自分の腰をアキラの中に埋めた。
「う…!」
到達感が強く残る間に攻め入られてアキラは辛そうに首を振った。
それに構わず社は一気に自分自身を埋めて突き動かそうとした。
だが、そうしようとしてアキラと目が合い、真直ぐに自分の価値を、冷徹に
選定基準に照らされているような気がして再び社は勢いを失った。
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