白と黒の宴3 44
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「社の前では、不要に親しい仲をみせないようにしよう。」
合宿の前日、意外にもヒカルの方からそういう内容の電話をアキラは受けた。
当然、社と終わったとは言え、だからといってアキラも余計な心情を彼に
与えるつもりはなかった。
「…別に普段通りでいいとは思うけど。」
「うん、まあ、そうなんだけど…」
そう言葉を濁すヒカルが、アキラにはらしくないと思えた。
「それより進藤、明日、駅まで迎えに行こうか。」
「だから、そういうのをやめようって言ってンだよ。塔矢って、無意識に
オレの事を何て言うか、…同等に見ていないとこがあるだろ。」
「それは誤解だ。進藤、…何かあったのか?」
「…何でもないよ。」
明らかに何かあったのだろう。
そしてヒカルがそういう態度を見せる時、いつもそれはヒカルが明かせない、
壁の向こうにあるものが原因となっている。
ヒカルのそういう面にアキラはもう慣れていた。
一度ヒカルの言葉が閉じてしまえば触れないで済ませるしかない。
碁の検討になるとヒカルは夢中になっていろいろアキラも思い付かなかったような
解釈や発見を述べる事がある。でも、例えばヒカルが例に出したその棋譜の
対局相手の事を訪ねると、その多くを「覚えていない」と答えられてしまう。
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