白と黒の宴3 45
(45)
棋譜を覚えていて相手の名を忘れる事はないだろうが、
追求するとヒカルは言葉を荒げるか、理由を付けて検討を中断してしまう。
何度かキスを交わす間柄ではあってもそれは変わらなかった。
壁の向こうにあるものの存在を、アキラはうっすらと捕らえかけていた。
そしてそれをヒカルも感じている。
後はそれをヒカルが肯定するかどうかだった。
アキラは待つ事にした。
その時期は、そう遠くないような気がしたからだ。
アキラが深く問わなくなってから、ヒカルとの会話はずいぶん
穏やかに長く続くようになった。
「最近ケンカしなくなったわね。そうなると何か物足りない感じ。」
碁会所で怒って席を立つヒカルにカバンを渡す役目だった市河は冗談めかして
そう言っていた。
「進藤くんもアキラくんも大人になったのねえ…。」
としみじみと溜め息をつく。
「ボク“も”なんですか?」
何となく不本意なものを感じてアキラがそう尋ねると、後ろでコーヒーを吹き出す
常連客が居て、市河も返答に困る表情を見せていた。
「あ、…つ、つまりね、アキラくんは、進藤くんと一緒の時“だけ”は、子供みたい
だったってことなのよ…。」
|