白と黒の宴3 5


(5)
「動くなと言っただろう。」
そう言いながらも緒方は指を動かすのを止めず、アキラ自身全体を握り込み、
滲み出す雫を拭き取るように時折親指で先端をなぞる。
その度にアキラは僅かに体を震わせ、唇を噛んでシーツを掴み、刃先が体に接している間
目を閉じてその状態に耐えた。たいした時間もかからずその部分から体毛が消えた。
「済んだよ。熱いタオルを持って来て拭いてやるからそのままでいなさい。」
緒方は傍らのサイドボードに剃刀を置くと部屋を出ていった。
アキラはベッドの上でぼんやりと天井を眺めていたが、サイドボードに視線を落として
その剃刀を見つめ、何かを決したように体を起こした。
緒方がタオルを持って戻ってくると、剃刀を握りしめたアキラがいた。

アキラはベッドの上に座り込んでまじまじと剃刀の刃を見つめ、指でなぞっていた。
「…危ないよ、アキラくん。返しなさい。」
緒方はアキラの方に手の平を差し出した。
「緒方さん、…緒方さんのも、剃らせてください。」
アキラのその言葉に緒方は一瞬目を見張り、クッと笑った。
「…冗談じゃない。さ、返すんだ。」
するとアキラが剃刀を自分の腕に当てて今にも切り付けようとする姿勢をとった。
「ボクは本気で言っているんです…!」
そうして肘の内側近くのところに刃を当てがった。
「…わかった。好きにしろ。」



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