白と黒の宴3 54
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高永夏と戦いたいのなら皆の前でちゃんと理由を言って倉田に頼めばいい。
だがやはりヒカルはそれをしようとしない。
「ただ大将になりたいだけだろ?オマエ!ガキだな!」
呆れ切ったように倉田が言う。
本当にそれだけの理由だったらいいが、何か形にならない不安がシミのように
アキラの胸の奥に広がっていった。
倉田が帰った後、手空きの順に風呂を済ませた。
さすがに社が大きく欠伸をし、つられるようにヒカルも欠伸をし、伸びをした。
「そろそろ寝ようか。」
アキラの言葉に2人とも頷いた。
少し寝るには早い時間だったがかなり3人共に疲れが出て来ていた。
アキラは対局をしていた部屋の襖を隔てた隣にヒカルの布団を敷かせようとしが、
「そんな必要無いよ。めんどくさい。」とひかるが
とっとと社の隣に敷いてしまった。アキラが不安顔を社に見せた。
すると社は苦笑いして首を横に振って見せ、アキラも社を信じる事にした。
実際社はアキラとヒカルの対局を見て、2人と自分の差に一段と
ショックを受けて、妙な考えを起こす余裕など毛頭ないようだった。
茶器を片づけに台所に2人で立った時、社はぼそりと呟いた。
「井の中の蛙―やった。オレは…。せやけど、これからは…」
「ボクだってそうだったよ。進藤に会うまでは。」
「ハッ、かなわんなあ進藤には。そう言えばあいつ、何であんな高永夏に
こだわるんかな。寝る前にちょこっと聞いてみるわ。」
「多分、聞いても進藤は答えないと思うよ。」
「…なんや見てると、お前ら夫婦みたいなあ。洪ナントカの事といい、
塔矢アキラは進藤ヒカルの事は何でも知っとるらしい。」
社は冷やかしの溜め息をついて頭を掻き、台所を出ていった。
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