白と黒の宴3 56
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そのまま直ぐにヒカルは目を閉じた。
ただ本当に隣で眠るだけのつもりのようだった。
そんなヒカルの横顔を見つめながらアキラの喉元までヒカルに事情を問う言葉が
出かっていた。が、止めた。
今夜はこのままただ眠る事を優先させた方がいいと思った。
「…へへ、この布団、塔矢の匂いがする。」
目を閉じたままそう言うヒカルに、アキラは右手をそっと近付け、
手の甲をヒカルの目蓋の上に乗せた。
「…なんだよ。」
ヒカルが体をアキラに向けて目を開け、右手でシーツに押し付けるように
その手を握った。
互いに黙ってしばらくそうして見つめ合った。
やがてヒカルの指がアキラの指を一本一本なぞり始めた。
その指はアキラの手の平、手首へと移動し、腕そして肩へと薄い夜着の上から
アキラの存在を確かめるように動いていく。
ヒカルが体を起こすのとアキラが両腕をヒカルに差し出すのとほぼ同時だった。
ヒカルの体がアキラの体にほぼ重なるように覆いかぶさり、
2人の唇も深く重ねられる。
上から蓋を被せるようにヒカルはアキラの唇を塞ぎ、片腕をアキラの脇の下から背中へ、
もう片腕で頭を抱え込むようにしてきつく抱きしめた。
アキラも両手でヒカルの肩と首を抱きしめた。ヒカルの体重がアキラの全身に馴染んだ。
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