白と黒の宴3 6


(6)
緒方はタオルを放り出すとアキラの向いにベッドの上に座り、壁に背中を持たせかけた。
「ムースを手にとって…塗ってください。」
まだ剃刀を腕に当てた姿勢のままのアキラに指示され、緒方は言われる通りにした。
アキラはそんな緒方の様子を見ながら緒方の体を無意識のうちに観察していた。
明るい光の下で緒方の裸体を眺めるのは初めてかもしれないと思った。
今までとてもそんな余裕はなかった。
緒方も体毛がそんなに多くなかった。毛根が少ないタイプらしく、すねの毛も
まばらで髪の毛と同じように茶色がかった目だたないものだった。腕のは金色に近い。
アキラの方に向かって投げ出されている足は膝から下がすらりと長く、
長身に見合ったバランスの良い肩幅と骨格に理想的な筋肉が張り付いている。
女に不自由する事は決してないだろうし、何かのレセプションの会場で見かけた事がある
緒方の恋人らしき女性はそういう事にまだあまり関心がないアキラから見ても、
とても魅力的で美しい人だったと記憶している。
そんな緒方が、なぜ、自分の事を、とアキラは思う。
それは社に対しても思う。
「…これでいいかい。お手柔らかに頼むよ。サウナにも行けなくなる。」
「…全て剃るつもりはありません。」
緒方と同様に、アキラは左手で緒方自身をそっと持ち上げると、右側の周囲から
刃を当てた。慣れない手付きで慎重に動かす。そういう処理の時は先に毛足をハサミで
短くする必要がある事などアキラは知らなかったし、緒方も何も言わなかった。



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