白と黒の宴3 8
(8)
「ご…ごめんなさい!」
アキラは青くなって一瞬どうすべきか分からず固まってしまった。
「いい。自業自得だ。…剃刀を返しなさい。」
緒方はアキラから剃刀の柄を受け取りサイドボードに置くと、自分で片手を伸ばして
ティッシュを取り、傷を押さえた。
アキラはそのサイドボードの上に緒方が持って来たタオルがあるのを見つけ、それで
他の泡の部分を拭き取った。
「たいした傷じゃない。」
青ざめた顔のアキラの手首を持って自分の体から離すと緒方はベッドから下りて
部屋から出て行った。アキラも後を追うと、緒方は洗面所でもう一度タオルを
湯で濡らして絞っていた。
そしてアキラの方に振り返ると屈み、アキラの下腹部を拭いた。
立ち上がった緒方のその傷からはまだ僅かに血が滲み出していた。
「傷薬はどこに…」
「早く服を着て出なさい。手合いに遅れてしまうぞ。」
緒方にぴしゃりとそう言われてしまい、アキラはもう何も言えなくなった。
アキラが支度を始めると緒方も傷口に何か絆創膏のようなものを張り、下を履いた。
「それじゃあ、緒方さん…。」
「ああ。」
玄関に立つアキラと緒方は一瞬互いの目を見合った。
「アキラくん、」
静かな緒方の口調にアキラは表情を強張らせた。何か予感があった。
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