病床小アキラ 1 - 3
(1)
行き当たりばったりでのんびり書いていきます。
アキラくんは風邪をひいてしまいました。
昨日の夕方に突然お熱が出てしまったので、それからアキラくんはお布団の
中でうつらうつらしたり、りんごを食べたりお薬を飲んだりを繰り返しています。
朝から降り出した雪はもういくらか積もった頃でしょう。
アキラくんが窓の向こうの空を眺めていると、静かに襖が開く音がしました。
アキラくんがガンガンする頭をゆっくりと動かすと、お父さんが立っています。
「…アキラ、具合はどうだ?」
「おそとであそびたいの」
アキラくんがお布団の中から訴えると、お父さんはアキラくんの枕元に座り
おでこに手を当てて、難しい顔で首を振りました。
「まだ熱が高い。今日一日は寝てなくちゃならんな」
「……ヤ」
「アキラ……」
お父さんは困ったように溜息をつきました。
「いいから、もう少し眠りなさい」
「ねむくないんだもん」
アキラくんはずっとずっと眠っていたので、すっかり退屈していました。
「おとそ、雪がつもってるでしょ?」
「あ? …ああ」
「おそとに行きたいなあ…」
アキラくんは窓の外を見ながら、ぽつりと呟きました。
(2)
「アキラくん、風邪ひいたんだって?」
緒方さんはアキラくんのおうちに着いてすぐにアキラくんのところに
来てくれました。いつもは玄関に掛けるはずのコートも腕に掛けたままです。
「可哀相に……」
「おがたくん、おそとであそんじゃだめ〜?」
緒方さんは困った顔でアキラくんの髪を撫でました。緒方さんの手は冷たくて、
アキラくんの熱いおでこを気持ち良くしてくれます。
「アキラくんはまだ熱が高いから、今日はおふとんの中で我慢してねんねしてなきゃね」
「だって……ヤなんだもん」
アキラくんは赤い顔をして緒方さんを見上げました。『なあに?』と緒方さん
はアキラくんの髪やほっぺたを一層優しく撫でてくれます。
「おがたくんは、おうちでひとりでもさびしくないの?」
「アキラくん……寂しかったの?」
緒方さんは問い返しましたが、すぐに『そうだね、ひとりは寂しいよね』と
独り言を言いました。アキラくんの大きな目から、今にも涙が零れそうだったからです。
(3)
「オレがここにいたら、アキラくんは寂しくない? 我慢して寝ていられるかな?」
アキラくんは眉を寄せて一生懸命考えます。ですが、考えているうちに何を考えているのか
わからなくなってきました。頭を右にやったり左にやったりして考えています。
「……わかんない……」
「ハハハ。わかんないか」
緒方さんはアキラくんの傍らであぐらをかくと、持っていたビニール袋を持ち上げました。
「アキラくんにおみやげ買ってきたんだよ。プリン食べる?」
「ウン」
プリンはアキラくんの大好物です。いつものようにお布団の中から起き上がろうとしましたが、
どうしてか力が入りません。緒方さんに手を引っ張ってもらって抱き起こしてもらいましたが、
今度は目がぐるぐる回って座っていられなくなりました。
とてもプリンを食べられる状態ではありません。
「おとうさんは〜?」
お布団の中に潜り込んで、アキラくんは緒方さんに訊ねました。
緒方さんは困ってしまいました。というのも、アキラくんのお父さんはどうしても休めない
お仕事に出かけてしまったからです。
言おうか言うまいか、緒方さんはしばらく逡巡しましたが、アキラくんに嘘を言うわけにも
いきません。緒方さんはアキラくんのおでこに手をあてて熱を計りながら口を開きました。
「先生はね、どうしても行かなきゃならない仕事に行っちゃったんだよ」
「………そうなの……」
アキラくんは途端にガッカリしてしまいました。悲しくなったのか、お布団を顔の上までひっぱり
あげてアキラくんはぐずりはじめてしまいます。
「アキラくん、泣いちゃったらもっと頭がガンガンしてくるよ?」
緒方さんはお布団を少し捲り上げて、アキラくんの涙に濡れた頬をタオルで拭いてあげました。
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