白と黒の宴 10
(10)
大きな手が目まで覆うようにアキラの額に当てられた。続いて耳の下辺りの首にも。
「…食事どころじゃなさそうだな。」
アキラの体を抱きとめて初めて緒方はアキラの体温がひどく高い事を感じ取った。
「車を下に持ってくるからここで待っていなさい。」
アキラは驚いたように緒方の顔を見上げた。
「そんな、…大丈夫ですよ、ボクは別に…」
緒方の体から離れようとするアキラの両腕を緒方が掴んだ。
「ここで待っているんだ。」
感情を見せない薄い色の瞳でぴしゃりとそう言われてしまうとアキラに反論の余地はなかった。
緒方が部屋を出て行った後、アキラは壁にもたれ掛かって自分の腕で自分の体を抱いた。
寒気がしてきた。
“オレがあたためてやろか…”
背後の壁から腕が伸び出て羽交い締めにされるような気がした。自分はまだこうして社に
捕らえられたままだ。彼がどんなに硬く熱く自分を突き上げたかはっきり覚えている。
死に物狂いで抵抗すれば、逃げる事が出来たかも知れない。だが自分はそうしなかった。
虫が這い回るような研究会の連中の感触を忘れたかった。
そして実際、社に抱かれた後はそれらが消えた。
だが今度は荒々しい激しい感触に悩まされている。そして今は収まっているが、また
いつ激しく体内で燃え出すものが現われるかもしれない。もしかしたらもう始まっているのかもしれない。
別の相手が必要なのだ。社の痕跡を消すためには…、そしてアキラは首を振った。
「なにを、バカな事を考えているんだ、ボクは…」
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