白と黒の宴 31 - 35


(31)
アキラの唇から離れた緒方の唇は、アキラの首から肩にキスをくり返し、片手で胸の突起を弄り、
片手を下の方に滑らせて行く。
激痛の座に腰を埋めながら加えられる甘い刺激に反応し蜜を先端から滴らせる果肉を捕らえる。
「うう…ん…っ、う…ん…」
打ち込まれた杭の強大さに動く事も出来ず、ただ人形のように緒方の膝の上で
緒方に施される指の動きに従って止めどなく吐息を漏らす。
体内に異物を奥深く押し込められた苦しみと、局部に与えられる快感に揺さぶられ、
身体が次への段階を求め始める。
気がつくとアキラは自ら腰を左右に揺らしていた。
それを待っていたかのように緒方もゆっくりと腰を動かした。
「あ…あ…っ」
結合した部分が軋み、新たな痛みと同時により深い感触がアキラの下腹部を犯す。
痛みを拒否する事より更に刺激を得る事を選ばさせられる。
互いの腰の動きが大きくなるにつれてアキラは後ろ手に彷徨わせた手を緒方の首に回し
緒方の髪を掴んでいた。
自分のものとは違う質の柔らかなウェーブのかかった薄茶の髪を乱した。
緒方の中の炎と自分の中の炎が結びつき一体化するような錯角が走った。
緒方の身体も自分の身体も、自分の中の奥深くにある緒方自身も燃えるように熱かった。
「…っと…もっと…」
無意識に言葉を吐き、アキラは自ら腰を浮かし、沈めるという動きを始めていた。


(32)
その姿勢のままでもう殆どアキラは達しかけていた。
すると突然緒方がアキラの腰を抱え、分身を引き抜いた。
「う…んっっ!」
体内を支配していたモノがごっそりと移動する感触にアキラは身震いする。
「…緒方さん…?」
緒方はアキラの身体を仰向けにベッドに横たえて両足を開かせ、その間に身体を入れて
アキラの両膝を抱え込む。先刻までの姿勢では十分に動けないためのようだった。
その時アキラは初めて緒方の高まり切った陰茎を目の当たりに見て言葉を失くした。
最初に見ていたら、どんなに暴れてでも必死に拒否していたはずだった。
緒方のそれは天を向いてそそり立ち、血の混じった体液を纏っていた。
そして今再びその先端がアキラの腰の中心の奥に押し当てられる。
「はあ…あっ…!!」
ようやく異物を吐き出して喘いでいた窄まりが再び押し広げられる。苦し気にアキラが呻く。
ゆっくりと、だが今度は一息に根元まで緒方は進めた。
「ううーん…っ」
アキラの下肢がビクビクと震えた。だが今度は精を吐き出す迄には到らなかった。
ただ緒方と同様にアキラの分身も熱く昂って雫を纏い硬くそそり立っていた。
アキラの最奥迄突き入ると緒方はすぐに腰を引き戻した。
「う…あ…あっ!!」
殆ど抜けそうになる位引き抜き、再度腰を埋める。そしてまた引き抜く。


(33)
ギシッギシッとベッドの軋む音が等間隔でくり返され、その度に泣き声の混じった悲鳴が上がる。
緒方の目からまた感情が消えていた。
うつ伏せにされて挿入された時と同様に、ただアキラはシーツを両手で握り、なす術もなく
緒方にされるままになっていた。
殆どもう何も考えられなくなっていた。
分かって入るのは、今自分の下腹部は緒方に支配され、
彼が満足する迄は解放されないという現実だった。
そしてそれにはまだ先であると言う事だった。
緒方は姿勢を倒してアキラの両膝から手を離し、再度アキラの両手首を握ってシーツに
押さえ付け、自分の下腹部でアキラの分身を圧迫し刺激するようにして腰を動かし始めた。
「ん…ん…っ」
殆ど焦点の合わない空ろな目でアキラはただ天井を見つめていた。
アキラの限界が近いのを知っていて敢えて緒方はその部分に集中的に刺激し、
胸に顔を寄せて片方の乳首を口に含む。
「ああ…っ、あーっ!!」
背骨に近い深い部分からうねり上がるような感覚が走り、重なりあった二人の腹部から
アキラが放った白濁の液体が流れ出る。
ビクンビクンとアキラの身体が痙攣する。だが緒方の動きは止まらなかった。
限界を超えて刺激を与え続けられ、アキラの頬を涙が伝い、嗚咽混じりの悲鳴が何度も漏れた。
緒方の動きの激しさはアキラに次の放出を強いていた。


(34)
「…に…、…と…一緒に…」
息も絶え絶えにアキラは思わずそう口走っていた。
「…お願い…、緒方さんと…」
アキラのその言葉に激しかった緒方の動きが止まる。
「…一緒に…た…い…」
アキラの両手首から緒方の手が離れた。緒方がアキラをじっと見つめて来る。
その時の緒方の目を見て、ああ、とアキラは感じた。
緒方は怯えていたのだ。
自分の中に抱えた炎をその相手にぶつけてしまい、もう二度と振り向いてもらえないかもしれない事に。
それでも自分ではどうする事も出来ない。止められないのだと。
「…いのか…?」
何を問われたのか分からなかったがアキラは自由になった両手を差し伸ばし、緒方の首を抱いた。
自分の方から顔を寄せて緒方の唇を吸った。
次の瞬間緒方の方からも強くアキラの肩と背中を強く抱きしめて来て腰を動かし始めた。
「ふっ…くっ…」
緒方の口元からも荒く吐息が漏れた。その吐息を飲ませるように激しくアキラの唇を奪う。
揺さぶり合い、高めあって結合部分が同時に熱を放ち二人の身体は溶け合い融合した。
腸内を熱く焼くような緒方の精を受け止め、アキラは限り無く“脳が溶ける”ような感覚の中を漂った。
…ボクはずるい…
漂いながら、アキラは思った。
緒方を受け入れる事で自分を誰かに許してもらおうとしているのだ。


(35)
その後は、あまり記憶にない。ただ、一方的な交わりではなく互いにきつく相手の身体を
抱きしめ合い、2度、緒方の熱を受け止めた。自分が何度到達したのかは分からなかった。

血の滲んだシーツを引き剥がされたベッドと、シャワーや濡れた壁から水滴が落ちるバスルーム。
ブラインドの隙間から光りが差し込む中、二人の姿は応接間のソファーベッドの上にあった。
裸で毛布にくるまり、緒方の胸に抱かれてアキラは深い眠りに落ちていた。
ふいに電話が鳴り、緒方が反射的に身体を起こしてソファーの脇のテーブルの上にあった
コ−ドレスフォンを取る。アキラも目を覚ました。
「…もしもし、あ、…いえ…」
緒方の顔色が変わったように見えた。電話の相手はアキラにも直感で分かった。
「…ここに居ます…。…はい、代わります。」
アキラもゆっくりと身体を起こす。光の中に痩せた白い背中が露になる。
一度保留ボタンを押すと、緒方は無言で受話器をアキラに差し出す。
受け取った時に触れた緒方の指先は少し冷たかった気がした。
「もしもし…、はい…。ええ、リーグの事でいろいろ…それでつい、遅くなって…」
母親からだった。旅先から家に電話して連絡が取れなかったためここにかけて来たのだ。
「わかりました…。ええ、伝えます。大丈夫、子供じゃないんだから…。」
アキラは電話を切ると、怪訝そうにこちらを見据えている緒方に言った。
「…父と母が日本に帰るのが少し遅れるそうです。」
もの言いたげな緒方を視線で制して続ける。
「…もう一晩、ここに一緒に居ていいですよね、緒方さん…。」



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