白と黒の宴 21 - 25


(21)
アキラと緒方の視線が合った。緒方の瞳をメガネを外した状態で間近に見るのはこれが初めてだった。
髪と同様に色素の薄い茶系の瞳。
薄暗い間接照明の中でもそこにはただならぬ気配を漂わせていた。
それが怒りなのか、自分に対する蔑みなのかはアキラには分からなかった。
ただ、緒方の自分を見つめるその目付きには、見覚えがあった。
『…ずっとオレはあんたを見て来たンや…』
獣のように唇を貪りながらアキラを欲した社の目だ。
「無理矢理だったのか。…それとも…」
緒方の次の言葉を予測して微かにアキラの唇が震えた。
「…誘ったのか。」
アキラは目を閉じた。事務所の中に落ちていたチケットの切れ端から緒方は何もかも見抜いている。
おそらくその相手とアキラはここに来たのだと。そして何かがあったのだと。
鍵を持っているのがアキラである以上引き入れたのはアキラであると。

『誘ったのはそっちや…!』
社の言葉がアキラの頭の中でくり返される。
『欲しいんとちゃうんか』
そして、自分が社に言った言葉も覚えている。
『…動いて…もっと…激しく…。…痛くても…いいんだ…』


(22)
「…そうかも…しれません…。」
予想外のアキラの返事に言葉を失ったのは緒方の方だった。
アキラに鋭い視線を向けていた瞳を閉じ、顔を伏せ、小さく唸るような声を上げた。
アキラの手首を握る手に更に力が加えられ痛みにアキラも苦し気に肩を捩る。
痛いのは手首ではない。緒方の自分に対する気持ちに今気付いた。
そしてそれを裏切ってしまった事を思う胸が痛かった。
時折離れた場所から自分の事を見つめている緒方の視線に気付く事があった。
ただ互いに兄弟弟子以上の感情は持ち得ないと思っていた。
父と同様にどんなに碁打ちとして尊敬はしていても。
今となってはもう自分の方にその値うちが無いのだ。弟弟子であることさえも。
「…ボクは…」
アキラを押さえ付けたまま今だ動こうとしない緒方に語りかける。
「…ボクは、…あなたが思っているような人間ではありませ…」
アキラの言葉は緒方の唇によって閉ざされた。
時が止まったかのように感じた。

アキラは驚いて目を見張った。一瞬だけ触れあって離れた唇はアキラの耳元に寄せられた。
「…オレも…君が思っているような人間じゃない…」
そうして緒方の顔が目の前に戻される。アキラの目は見開かれたまま、再びその唇に緒方の唇が重ねられる。
最初は浅く、そして深く、強く押し付けられてきた。


(23)
押さえられた両手のまま、アキラの肩がカタカタ震える。
舌が差し込まれ、息もつけない程にこちらの舌を激しく吸い上げられ唇を奪われる。
そして離された唇は、肌に触れるか触れないかの場所を動いてアキラの首筋からさらに下へと移動して行く。
そして胸の突起周辺で、何かをまだ躊躇うように止まった。アキラが呼吸する度に胸が上下すると
僅かに緒方の顎に触れる。
それだけでも、神経が張り詰め敏感になった皮膚の表面が泡立って行く。
「お…が…た…さ…」
熱い息が、そこに降り掛かった。
次の瞬間甘い電流がアキラの胸の先端から体の深部に走った。
小さな悲鳴があがった。
「緒方…さ…っ!」
緒方がアキラの乳首を捕らえ、ゆっくりと唇で愛撫を始めたのだ。
「ダ…メ…ッ!…や…っ」
首を振り、何とか緒方の戒めから手首を振り解こうとアキラはもがいた。
だが、緒方の腕力の前にはなす術がなかった。社を遥かに上回る威圧感を感じた。
だが恐怖を感じる以上に、今アキラに与えられているのはどうしようもないくらいの甘い快感だった。
「う…ん…っ…」
緒方が触れる前から、そこはくっきりと形を保って硬く尖り立っていた。
夢の続きを待ち望んでいた場所だ。
アキラの体が真に望んでいたものが、緒方によって与えられようとしていた。


(24)
ゆっくりとした舌の動きで十二分な刺激をアキラは与えられる。時間をかけて丁寧に。
まるでアキラの中にある火種の事を分かっているように緒方は
黙々と愛撫を続ける。
「緒…方さ…ん…っ」
もう何度呼び掛けただろう。次第に吐息が混じり掠れ々な声でアキラはくり返す。
「やめてくださ…緒方さ…」
それでも緒方の唇がアキラの胸の敏感な部分から離れる事はなかった。
片方からまた片方へと交互に吸い、乳首の周囲まですっぽり口に含み、
歯と舌でその先端から甘い果汁でも吸い出そうとするかのように入念に動かし弄ぶ。
やがてアキラが緒方の名を呼ばなくなり、切なく涙混じりに吐息を吐くばかりになるまで、
下肢で最初に精を吐き出したアキラ自身が再び熱と昂りを持ち始めるまで続けられた。
勢いに任せたものではなく高熱で神経が過敏になっているのを考慮されたある意味“優しい”愛撫に、
もうそれだけで今にも再び到達してしまいそうなくらい内部は高められていた。
「ああ…っ!!」
殆どもう、限界に辿り着きそうになって一際高い喘ぎ声をアキラが漏らした時、
緒方が顔を上げた。
呼吸を荒くし、紅潮した頬と涙が滲む睫毛と、震える唇で、アキラは緒方を見る。
緒方の目はますます人間性を何処かへ置き忘れたかのような無表情さでアキラを見下ろしていた。
僅かでもそれが残っていればその先へは進めないと分かっていて感情を遮断してしまったかのように。
前を開いていたパジャマを引き剥がされ、アキラはうつ伏せにされた。ズボンも取り払われた。


(25)
「お…が…」
うつ伏せて開かせた両足の間に体を入れるようにして緒方の体がアキラの上に覆いかぶさって来た。
鬱陶しそうにアキラの黒髪をかきあげてうなじに口付ける。噛み付くように、少し歯を立てて。
ゾクリとアキラは肩を竦ませた。
そのまま首の後ろを背骨にそって柔らかな唇の感触が移動していく。緒方の唇の触れた
先々が熱く熱を放って身体の奥深くの何かを掻き立てる。
アキラはようやく解放された両手で顔の近くのシーツを掴む。
手首には新たな指の痕がはっきり残っていた。社のものより大きく鮮明に。
自分には緒方を止めることができない。
唇を重ねた瞬間に二人の関係は一変してしまったのだから。

その緒方のキスは下肢へと近付き、両足を更に割り開くと形よく盛り上がった白い丘の
谷間へと舌を滑らせる。
「あ…っ」
思わずシーツの上を掻いてアキラは緒方の舌から逃れようとしたが、がっちりと太ももを
抱え込まれて動けなかった。
緒方の舌は谷間の奥の窄まりに届き、乳首と同様に唇で包み深く愛撫する。
「はっ…ああ…っ!」
アキラが激しく首を振って身を捩るが緒方は眉一つ動かさず行為を続ける。
まるでディープキスをするように舌を差し入れ、皺に歯を立てて来た。



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