病床小アキラ 10 - 11
(10)
アキラくんの背中を優しくポンポンしていると、次第にアキラくんのまぶたが下がってきました。
「おがたくんのね、――だよ……?」
おでこを何度もスリスリしながらだったので、はっきりとは聞こえません。緒方さんは一瞬背中を
叩く手を止めて、アキラくんのチェリーの唇を見つめました。
「――え?」
「うさぎちゃん、ってボクいったよ?」
ああ、さっきのしりとりのことか。緒方さんは微笑して背中ポンポンを再開させました。
(うさぎちゃんじゃなくてリンゴって言っただろ、キミは)
アキラくんはしりとりのシステムを理解するまでに「リスちゃん!」だの「くまさん!」だの
「プーちゃん!」だので散々自滅していて、今回のしりとりがはじめて長く続いたものなのですが、
今はとても眠いのでしょう、いつもの調子に戻ってしまいました。
「ああ、それはオレが負けちゃったんだよ。次が思いつかなくてね」
「なぁんだー」
アキラくんは満足げににっこりと笑うと、また緒方さんの胸のシャツをきゅっと掴み直します。
やがてアキラくんがすぅすぅと寝息を立て始めるまでに、それほど時間はかかりませんでした。
(11)
夕暮れが近付いても大きなボタン雪はしんしんと降り続いています。ようやくお仕事が終わった
お父さんは、外から帰ってくると急いでアキラくんのお部屋に行きました。
右手にぶら下げたビニール袋がおかしな程似合いません。
「おや」
そぅっと障子を開けたお父さんは、お部屋のはしっこにいる2人を見て目を細めます。
「サルの親子がいるのかと思ったよ」
「なんですかそれは……」
緒方さんにくったりと抱き着いたまますっかり寝入ってしまったアキラくんを改めて抱え直して、
緒方さんは憮然としました。
「ハハハ、この間テレビで温泉に入るサルというのを見てね。仲睦まじげな様子が似てるよ」
お父さんは口許を押さえてクスリと笑うと、手に持ったビニール袋をがしゃがしゃさせながら中に
入ってきました。部屋の中が暗くなっているのが気になったのでしょう、途中で立ち止まって電灯
の紐を引っ張りました。ちっちゃなアキラくんが手を伸ばして届くように、電灯の紐にはリボンが
括り付けられています。リボンの端には緒方さんが持ってきたウサギちゃんのキーホルダーが
ぶら下げられていて、紐が揺れるたびにチリリと鈴の音を響かせました。
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