白と黒の宴 12


(12)
緒方のマンションの部屋に入るのはこれが初めてだった。
その機会も必要もない位緒方の方が頻繁に塔矢家を訪れていた。
あまり生活感のない無機質な空間は緒方らしいと言えるが、淋し気にも感じた。
水槽の中で揺らめく熱帯魚の影が無彩色の空間を僅かに慰めているようだった。
「まずは、多少胃の中に何か食べ物を容れてもらおうか。レトルトの類いしかないが。」
アキラをソファーに座らせて緒方は台所に立った。
明らかに緒方は腹を立てている。見ていれば分かる。無理もない。
アキラはもう何もかも緒方に任せようと思った。目を閉じるとぐらりと地面が
揺れ動く感覚がする。二つのマグカップにクリームスープを入れてレンジで
温めたたものを緒方が持って来てアキラに渡す。
「熱いから気をつけろ。」
「…ありがとうございます。」
それを両手で受け取る。ふうと冷ますように息を吹き掛けて一口飲む。
どんなに自分の体が冷えきっていたかアキラは自覚した。
「味は、感じるか。」
自分の分はテーブルに置いたまま緒方は部屋の一角の棚の引き出しから
薬を探している。
「とても美味しいです。」
「…そうか。ならいいんだ。」
目的の薬をテーブルに置いてアキラを見遣る緒方の目の光が和らいだように感じた。
飲み物以上の温かさを感じてアキラは少しずつ落ち着きを取り戻していた。



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