病床小アキラ 12
(12)
「アキラの具合は? どうかね」
「少し元気になりましたよ。薬はまだ飲ませていませんけど、リンゴを半分くらい食べました」
そういえば。お父さんは後ろを振り返りました。アキラくんのお布団の傍にあるお皿にはウサギ
型のリンゴがころんと転がっています。
「眠ったのはついさっきです」
離れている間中、お父さんはアキラくんが心配で心配でたまらなかったのです。何度も家に電話を
かけてアキラくんの様子を聞こうと思いましたが、アキラくんが眠っているかもしれないと思うと
それもできず、じれったい思いをしていたのでした。
ウンウンと頷きながら、お父さんはいそいそと右手をアキラくんのおでこに持っていきます。
「――先生。冷たい手でアキラくんを触るとアキラくんがびっくりして目を覚ますんじゃ…」
アキラくんのおでこに触ろうとした瞬間に、緒方さんから冷静な意見を出されてお父さんは慌てて
手を引っ込めました。そして自分の袴でごしごしと両手を擦り合わせます。
「…もう触っても大丈夫だろうか」
手のひらを緒方さんに見せて、お父さんは真剣な表情で訊ねてきます。
(大丈夫かもしれませんが、それでは肝心のアキラくんの熱が判らないのでは――)
緒方さんは心の中で突っ込みましたが、お父さんは眠っているアキラくんのおでこにそろそろと
右手をあてました。
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