病床小アキラ 12 - 13
(12)
「アキラの具合は? どうかね」
「少し元気になりましたよ。薬はまだ飲ませていませんけど、リンゴを半分くらい食べました」
そういえば。お父さんは後ろを振り返りました。アキラくんのお布団の傍にあるお皿にはウサギ
型のリンゴがころんと転がっています。
「眠ったのはついさっきです」
離れている間中、お父さんはアキラくんが心配で心配でたまらなかったのです。何度も家に電話を
かけてアキラくんの様子を聞こうと思いましたが、アキラくんが眠っているかもしれないと思うと
それもできず、じれったい思いをしていたのでした。
ウンウンと頷きながら、お父さんはいそいそと右手をアキラくんのおでこに持っていきます。
「――先生。冷たい手でアキラくんを触るとアキラくんがびっくりして目を覚ますんじゃ…」
アキラくんのおでこに触ろうとした瞬間に、緒方さんから冷静な意見を出されてお父さんは慌てて
手を引っ込めました。そして自分の袴でごしごしと両手を擦り合わせます。
「…もう触っても大丈夫だろうか」
手のひらを緒方さんに見せて、お父さんは真剣な表情で訊ねてきます。
(大丈夫かもしれませんが、それでは肝心のアキラくんの熱が判らないのでは――)
緒方さんは心の中で突っ込みましたが、お父さんは眠っているアキラくんのおでこにそろそろと
右手をあてました。
(13)
「まだ少し熱があるな……。まぁ、薬を飲ませるほどではないかもしれんが…」
「ん……ぅ?」
お父さんの声が聞こえたのか、はたまたやっぱりお父さんの手が冷たくてびっくりしたのか、
アキラくんは2人の見ている前でぽっかりと目を開けました。
「――アキラ。具合はどうだい?」
アキラくんを起こしてしまったことに気づいて固まってしまったお父さんは、すぐに我に返って
アキラくんの頭を優しくナデナデします。
「あ…おとうさんだ〜」
不思議そうに緒方さんを見上げて、そしてすぐお父さんに気づいたアキラくんは手を伸ばして
お父さんにだっこをせがみました。
お父さんは目を細めてアキラくんを抱き上げます。腕の中の温かい重みがなくなり、緒方さんは
その代わりにアキラくんがくるまっていた毛布を抱きしめました。
「私がいない間、いい子でねんねしてたかい?」
「うんっ。ねぇおがたくん」
アキラくんは目をキラキラさせながら、立ち上がった緒方さんの眼鏡に手を伸ばします。するり
と眼鏡を取りあげられても緒方さんは慌てず、アキラくんのぷくぷくしたほっぺに手の甲で触れました。
「ええ。――とてもいい子でしたよ」
部屋の真ん中で大人2人が子供をあやす様子は少し不気味でもありましたが、幸いなことにその
ことを突っ込む人は誰もいませんでした。
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