白と黒の宴 14
(14)
「大丈夫かい、アキラくん。」
「…何でもありません。」
脱衣所の中の洗面台に体重をかけるようにして、バランスを保つ。
パジャマをはおって封じるように前のボタンを留める。
熱のせいだろうか。社の残した痕跡がやけにくっきり浮かび上がっているように感じた。
まるでアキラの何かをあざ笑うかのように。少し指が震えた。
着替えが済み、薬を飲み終えたアキラを緒方は寝室のベッドに連れて行った。
「緒方さんは?」
「最近はソファーで寝る事の方が多い。」
実際、ソファーの脇に空の酒瓶と供に枕代わりになりそうなクッションや掛け毛布が
無造作に置かれていた。
寝室は間接照明とベッド以外読みかけの本や雑誌がラック付近に散らばっている程度の
殺風景なものだった。
奥一面のブラインドが閉じている窓もどこか冷たい雰囲気を強調している。
意外に煙草の臭いはしなかった。リビングが余りに臭ったという事もあるが。
その人の部屋に入ると言う事はその人の内面を感じるような事だとアキラは思った。
温かいが、冷たい。冷たいが、優しい。
「いろいろありがとうございました。おやすみなさい。」
「…おやすみ。」
慣れない会話をするようにどこかぎこちなく緒方は答え、寝室のドアを閉めた。
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