病床小アキラ 14 - 15
(14)
アキラくんが起きてしまったので、そのまま夜ご飯になりました。
「ねえおがたくん、おいしいねぇ」
とろとろ半熟卵のオムライスをうさぎちゃんスプーンでぐちゃぐちゃにしながら、アキラくんは
上機嫌です。ほっぺたが赤いのは相変わらずですが、アキラくんは大分元気になり、一人で椅子に
座ることができるようになりました。緒方さんに抱っこされて眠ったのがよかったのでしょう。
「ホラ、ぐちゃぐちゃにしないでちゃんと食べなきゃね」
アキラくんの小さなお口のまわりには、半熟卵の黄色とケチャップの赤が景気よく混ざりあって
います。隣りに座っている緒方さんはティッシュを一枚取ると、お湯で湿らせてアキラくんの顔を
ゴシゴシしました。
「ねぇねぇ、おがたくんもおいしい〜?」
「おいしいよ」
緒方さんはアキラくんがはじっこに寄せているニンジンをこっそりご飯に戻しながら頷きます。
「おとうさんは〜?」
アキラくんはくるんと振り向くと、正面に座っているお父さんに訊ねました。お父さんのお皿にも
アキラくんと同じとろとろ半熟卵のオムライスが半分くらいまで残っています。ちょうどてっぺんに
日の丸の旗が刺さっていて、お父さんはいつも最後までその旗を倒さずに食べることを信条として
いました。今から旗の周囲3センチを残して手前側を食べる作戦のようです。
「おいしいとも。緒方くんは料理が上手だな」
(15)
「おいしいねぇ」
アキラくんははぐはぐとオムライスを頬張ってしみじみ繰り返すと、カップに手を伸ばしました。
プラスティックのカップに入っているかぼちゃのスープは缶詰めを牛乳でのばしたものですが、栄養が
たくさん入っています。少し温くなったったそれを、アキラくんはカップを両手で持ってコクコクコクと
一気に飲みほしました。
ふぅっと息を吐いたアキラくんを、お父さんと緒方さんは微笑みながら見つめています。緒方さんの
お皿はすでに空になっていて、お父さんのオムライスの旗は残念ながら志半ばで倒れていました。
「ごちそうさま〜」
アキラくんはぺこりと頭を下げます。ごはんを残さず食べるといつもお父さんが褒めてくれるので、
アキラくんは今日も頑張りました。
案の定、お父さんはエライエライとアキラくんの頭をポンポンと撫でてくれました。その度に裾から
香るお父さんの匂いは、緒方さんの匂いとは全然違いますが、アキラくんの大好きなものです。
「ねぇおとうさん、おそとであそんでもい〜い?」
「今日はもう暗くなっただろう、無理だよ」
アキラくんはクチビルを尖らせて、上半身を前後に揺らしました。アキラくんなりの不満の表現です。
「じゃああしたは〜〜?」
「それは明日にならないと判らんな。――さあアキラ、薬を飲みなさい」
緒方さんがキャップに注いでくれたイチゴ味の風邪薬を、アキラくんはコクンと飲みました。
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