白と黒の宴 15 
 
(15)
 
ベッドに入ると眠気はすぐにやって来た。両手を広げても淵に届かない、背伸びをしても 
足の出ない大きさにかえって落ち着かない感じがしたが。 
自分は疲れているのだ。早く体調を整え、万全の構えで緒方と戦うのだ。 
それが今夜の事に対する緒方への返しとなるのだとアキラは思った。 
目を閉じ、深く呼吸をする度に体が闇に沈みこんで行く。 
深く、深く、夢も見ない程深く眠りたい。そう願った。 
だが、それは叶えられなかった。 
 
軽くシャワーを浴びてガウンを羽織り、ワイングラスを脇に置いて緒方はパソコンに向かっていた。 
ちらりと時計を見る。0時を少し回ったところだった。アキラが寝室に入った後一度だけそっと覗いてみた。 
その時はアキラはスースーと穏やかな寝息を立てていた。緒方はしばらくアキラのその寝顔に見入っていた。 
少しだけ額に汗が浮いていた。そっと緒方はガウンの袖で拭き取ったがアキラは何の反応も 
見せなかった。 
緒方は指先で額に張り付いたアキラの前髪に触れようとして、止めた。 
 
「少し早いが、オレも寝るかな…。」 
もう一度アキラの様子をうかがおうかどうか迷ったが、メガネを外してテーブルに置き、 
そのままソファーに向かう事にした。 
その緒方の耳に、小さく呻くような声が聞こえた。  
 
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