病床小アキラ 16
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片付け魔の緒方さんは皆の食事が終わると、いそいそとコタツの上の食器を重ねて台所に運んで、
そのまま食器洗いに入りました。
「ああそうだアキラ、おみやげがあるずぉ?」
「おみやげっ!?」
体が冷えないようにと、コタツの中に潜り込んでいたアキラくんはもぞもぞと中から這い出して
きて、オレンジ色のコタツ布団の中からぴょこんと真っ赤な顔を覗かせました。
お父さんがアキラくんだけにお土産を買ってきてくれることはあまりありません。対局で地方に
行く時は、アキラくんの分も他の門下生と一緒くたにされてしまい、先日も箱に入った『生八つ橋』
を見て、アキラくんは少し悲しい思いをしていたのです。嫌いじゃないけど、アキラくんもたくさん
食べちゃったけれど何となく少し悲しかったのです。
「ああ。頑張って寝ていたご褒美だ」
そう言って立ち上がると、お父さんはアキラくんの頭をひと撫でして冷蔵庫に向かいました。
台所では、緒方さんはここぞとばかりにコンロにこびりついた汚れをこそげ取っています。
「緒方くん。キミの分も買ってきたけど、食べるかい?」
「何をです?」
「アキラの好きなプリンだよ。体が火照っているだろうから冷たいものがいいだろう」
「プリン…ですか」
ヘラでコンロを擦っていた緒方さんの動きが止まりました。
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