病床小アキラ 16 - 17


(16)
 片付け魔の緒方さんは皆の食事が終わると、いそいそとコタツの上の食器を重ねて台所に運んで、
そのまま食器洗いに入りました。
「ああそうだアキラ、おみやげがあるずぉ?」
「おみやげっ!?」
 体が冷えないようにと、コタツの中に潜り込んでいたアキラくんはもぞもぞと中から這い出して
きて、オレンジ色のコタツ布団の中からぴょこんと真っ赤な顔を覗かせました。
 お父さんがアキラくんだけにお土産を買ってきてくれることはあまりありません。対局で地方に
行く時は、アキラくんの分も他の門下生と一緒くたにされてしまい、先日も箱に入った『生八つ橋』
を見て、アキラくんは少し悲しい思いをしていたのです。嫌いじゃないけど、アキラくんもたくさん
食べちゃったけれど何となく少し悲しかったのです。
「ああ。頑張って寝ていたご褒美だ」
 そう言って立ち上がると、お父さんはアキラくんの頭をひと撫でして冷蔵庫に向かいました。
 台所では、緒方さんはここぞとばかりにコンロにこびりついた汚れをこそげ取っています。
「緒方くん。キミの分も買ってきたけど、食べるかい?」
「何をです?」
「アキラの好きなプリンだよ。体が火照っているだろうから冷たいものがいいだろう」
「プリン…ですか」
 ヘラでコンロを擦っていた緒方さんの動きが止まりました。


(17)
「プリンー!」
 アキラくんは喜んで立ち上がると、ほっぺたに両手をくっつけました。
「座りなさい。お皿に出してあげよう」
「うん!」
 お父さんは持ってきた白いお皿の上に、アキラくんの大好きなプリンを2つプッチンして、
アキラくんの前に一つ、自分の前に一つ置きました。
「おがたくんのぶんは〜?」
 自分とお父さんの分しかプリンが置いていないことに気づいたのでしょう、アキラくんは
眉をきゅっと寄せてお父さんを見上げます。小さいアキラくんは、いつのまにか他人を気遣
うことを覚えていました。
 ついこの間までは、緒方さんの分のプリンもなんとかして食べようとしていたあのアキラ
くんが、です。
 お父さんはその成長ぶりに気づいて、目尻に涙がじわじわと浮かんでくるのを止めること
ができなくなりました。
「緒方くんは今日はもうお腹がいっぱいでいらないそうだよ」
 袖口でそっと涙を拭い、お父さんはアキラくんの手にスプーンを握らせます。こちらもや
はり、プラスティックでできたオレンジ色のウサギちゃんスプーンでした。
 フーンと一つ頷くと、アキラくんは早速お皿を揺らして、プリンのプルプル加減にうっと
りします。プリンが揺れるたびにカラメルソースが零れそうになるところなどは、アキラく
んにとって非常にスリリングな事柄なのです。



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