病床小アキラ 18 - 19


(18)
 アキラくんはお父さんが食べはじめたのを知ると、小さなお口をいっぱい開けて、最初の
2口をスプーンですくって食べました。おいしいカラメルのところをすいすいと食べると、
あとはお皿を傾けてちゅるりと呑み込みます。かくして、アキラくんはお父さんがまだ
半分も食べ終わらないうちに大好きなプリンを全部食べてしまったのでした。
「ほんとにねぇ、プリンおいしいねぇ」
「ハハハ、そうかそうか。あとで緒方くんの分も食べるといい」
 お父さんは何の気なしに言った言葉でしたが、ぽすんとお父さんの膝の上に座ったアキラ
くんは頭をナデナデされながら、難しい顔をして右に左にと首を傾げています。
「? どうした?」
 お父さんがプリンを食べようとすると、アキラくんのまっすぐな黒髪がユラユラ揺れて邪魔
をします。もちろん、アキラくんにそんなつもりはこれっぽっちもないのですが、お父さんは
苦笑してアキラくんをひょいと抱きかかえました。愛息子の顔を覗き込むと、いっちょまえに
眉根を寄せているアキラくんの表情が可愛いいやら可笑しいやらで、お父さんは込み上げてく
る笑いを堪えるのに一生懸命です。


(19)
「アキラ。もしかして頭が痛いのか?」
 お父さんはふいに真顔になってアキラくんの目を覗き込みました。
 アキラくんは高い熱を出して、さっきまで寝込んでいたのです。
「ううん」
 アキラくんは右に左にと傾けていた首をまっすぐにしました。そこを捕まえて、お父さんは
アキラくんのおでこに自分のおでこをくっつけます。――大丈夫です。まだすこーし普通より
温かい感触がありましたが、心配するほどのことではありません。
 お父さんはほうっと息を吐き出して、アキラくんを膝の上に降ろしました。
「熱が下がったようだな。…何を考えていたのかい?」
「んっとね……。わかんなくなっちゃったー」
 テヘっと笑うアキラくんを見て、お父さんもフフと笑います。
「そうか。わかんなくなっちゃったか」

 切り取られたような黒い空から、雪がまた少し降ってきました。



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