病床小アキラ 23
(23)
「アキラくん……」
「なったっていいんだも……」
緒方さんの首根っこにぎゅっと抱き着いたまま、アキラくんは固まってしまいました。小さな身体を
震わせながら、声を出さずにアキラくんは泣いています。緒方さんはよしよしと髪を撫でながら廊下を
歩き、やがて足を止めました。
「――アキラくん。ほら、顔を上げて見てごらん。うさぎちゃんがお見舞いに来ているよ」
アキラくんはガバッと顔を上げると、両目をゴシゴシ擦って涙を拭い、緒方さんが指をさすところを
目を凝らして見つめます。
「うさぎちゃん……!」
そしてアキラくんは気づき、小さく叫びました。部屋の灯りがこぼれて明るくなった雪の上や、昼間は
ゆったりと魚たちが泳いでいる池を囲む大きな石の上に、たくさんのウサギがいたのです。
ちっちゃいのからおっきなものまで、数え切れないほどの真っ白なウサギが、廊下に立つ緒方さん
とアキラくん、そしてお父さんを取り囲むように集まっていました。
「ほう…」
お父さんはその光景をしばらく見つめると、何度か頷いて緒方さんの肩をポンと叩きました。そして
一人で部屋の中に入っていきます。
「アキラくんに、『早く遊ぼうね』って、『早く元気になってね』って、うさぎちゃんたちは言ってるよ」
――そんな緒方さんの言葉を、アキラくんは夢見心地で聞いていました。
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