病床小アキラ 30 - 31


(30)
「あ……おとうさん」
 アキラくんは強ばっていた指をゆっくりと開くと、グーパーを繰り返しました。
 お父さんは厳しい顔でそんなアキラくんを見つめています。その怖さといったら、アキラくんが
もっと小さいときに碁石を口にいれてしまったときと同じ顔でした。
 アキラくんは目をぎゅっとつぶって首を竦めました。
 怒られてしまうに違いないと思ったからです。
「アキラ。こんな薄着で飛び出して…、どうするつもりだったんだ?」
 しかし、お父さんの声はいつものように穏やかで、アキラくんはそっと目を開けました。
 ドキドキしながらお父さんを見あげて、そしてアキラくんはきゅっとその懐に抱き着きました。
 そして後ろを振り返り、池のほとりの大きな石を指差します。
「うさぎちゃんが、あそこにいるみたいだったの」
「うん?」
 雪をかぶった石の上には、相変わらずウサギがしゃがんでいるように見えました。
「早く見に行かなきゃ、いなくなっちゃうでしょ。それに、おそとはさむいから、こごえちゃうもん」


(31)
 ブルブルと震えているアキラくんの小さな手を自分の懐に入れて、お父さんは溜息を吐きました。
 ウサギの心配をする前に、アキラくんはまず自分の心配をしなければなりません。
「凍えてしまうのはおまえの方だよ。そんなに外に行きたいのなら、ちゃんと暖かくしてからだ」
 お父さんはアキラくんを抱えたまま冷たい廊下を戻ると、アキラくんを緒方さんのお布団の上に降
ろしました。
「服を持ってくるから、アキラは緒方くんに温めてもらっていなさい」
 確かにアキラくんのお布団もお父さんのお布団も、毛布が捲られたままになっていたのですっかり
冷たくなっているようです。
 アキラくんはコクンと頷くと、モソモソと緒方さんのお布団の中に潜り込んでいきました。
 お父さんはアキラくんがきちんと緒方さんのお布団の中に入るのを確認したあと、肩をぐるぐる
回しながら長い廊下を歩いていきます。背中のある一点に痛みが走りました。
「いかんな…。歳か?」
 お父さんは苦虫をかみつぶしたような顔をしてさらに身体を右に捻ってみます。鈍い痛みは気の
せいではありませんでした。
「いかんな」
 ジャンプしたアキラくんを夢中で抱き留めたとき、背中の筋を違えてしまったようでした。



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