白と黒の宴 34 - 35
(34)
「…に…、…と…一緒に…」
息も絶え絶えにアキラは思わずそう口走っていた。
「…お願い…、緒方さんと…」
アキラのその言葉に激しかった緒方の動きが止まる。
「…一緒に…た…い…」
アキラの両手首から緒方の手が離れた。緒方がアキラをじっと見つめて来る。
その時の緒方の目を見て、ああ、とアキラは感じた。
緒方は怯えていたのだ。
自分の中に抱えた炎をその相手にぶつけてしまい、もう二度と振り向いてもらえないかもしれない事に。
それでも自分ではどうする事も出来ない。止められないのだと。
「…いのか…?」
何を問われたのか分からなかったがアキラは自由になった両手を差し伸ばし、緒方の首を抱いた。
自分の方から顔を寄せて緒方の唇を吸った。
次の瞬間緒方の方からも強くアキラの肩と背中を強く抱きしめて来て腰を動かし始めた。
「ふっ…くっ…」
緒方の口元からも荒く吐息が漏れた。その吐息を飲ませるように激しくアキラの唇を奪う。
揺さぶり合い、高めあって結合部分が同時に熱を放ち二人の身体は溶け合い融合した。
腸内を熱く焼くような緒方の精を受け止め、アキラは限り無く“脳が溶ける”ような感覚の中を漂った。
…ボクはずるい…
漂いながら、アキラは思った。
緒方を受け入れる事で自分を誰かに許してもらおうとしているのだ。
(35)
その後は、あまり記憶にない。ただ、一方的な交わりではなく互いにきつく相手の身体を
抱きしめ合い、2度、緒方の熱を受け止めた。自分が何度到達したのかは分からなかった。
血の滲んだシーツを引き剥がされたベッドと、シャワーや濡れた壁から水滴が落ちるバスルーム。
ブラインドの隙間から光りが差し込む中、二人の姿は応接間のソファーベッドの上にあった。
裸で毛布にくるまり、緒方の胸に抱かれてアキラは深い眠りに落ちていた。
ふいに電話が鳴り、緒方が反射的に身体を起こしてソファーの脇のテーブルの上にあった
コ−ドレスフォンを取る。アキラも目を覚ました。
「…もしもし、あ、…いえ…」
緒方の顔色が変わったように見えた。電話の相手はアキラにも直感で分かった。
「…ここに居ます…。…はい、代わります。」
アキラもゆっくりと身体を起こす。光の中に痩せた白い背中が露になる。
一度保留ボタンを押すと、緒方は無言で受話器をアキラに差し出す。
受け取った時に触れた緒方の指先は少し冷たかった気がした。
「もしもし…、はい…。ええ、リーグの事でいろいろ…それでつい、遅くなって…」
母親からだった。旅先から家に電話して連絡が取れなかったためここにかけて来たのだ。
「わかりました…。ええ、伝えます。大丈夫、子供じゃないんだから…。」
アキラは電話を切ると、怪訝そうにこちらを見据えている緒方に言った。
「…父と母が日本に帰るのが少し遅れるそうです。」
もの言いたげな緒方を視線で制して続ける。
「…もう一晩、ここに一緒に居ていいですよね、緒方さん…。」
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