病床小アキラ 34 - 36
(34)
アキラくんはパチパチと目をしばたかせると、緒方さんのほっぺたに押し付けていた両手を
自分のほっぺたにくっつけました。緒方さんのおかげで温かくなったのか、アキラくんの手の
ひらはひやっともしません。アキラくんは眉根を寄せました。
「あれぇ?」
小さく首を傾げて、アキラくんは緒方さんの顔に自分の顔をぐぐっと近づけます。
「おがたくん、おかおまっかね」
「そう……?」
緒方さんは億劫そうに枕元に手を伸ばすと、置いていた銀色のフレームの眼鏡を取り、ノロ
ノロと耳にかけました。眼鏡をかけていても視線をあちこちに動かすことが苦痛で、そしてこ
の感覚には覚えがありました。
発熱です。
「しまったな。熱が出たか…」
緒方さんは舌打したい気分になりました。
自分の手で額に触れても、同じく体温の上がった手のひらでは熱のあるなしがわかるはずも
ありません。しかし緒方さんは、切ない気分で手の甲をおでこに乗せてみました。
先程からの悪寒はずっと続いていて、あまり楽しくない予想が脳裏を駆け巡っています。
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「ええっ! おがたくんもおねつがでちゃったの〜?」
アキラくんは驚いて、それから慌てて緒方さんの身体の上から降りました。緒方さんの顔の
前にちょこんと正座をし、心配げに首を傾げています。緒方さんは自分に熱があることを知り
余計辛くなったようでした。腕を額の上に乗せて、深く溜息を吐いています。
「多分ね。……アキラくん、お父さんは?」
「おそとに出るの。おがたくんにあっためてもらいなさいって」
「そう。……入る?」
緒方さんはお布団の端を持ち上げて、アキラくんに『おいで』と促します。しかしアキラく
んは頭をフルフルと振って立ち上がりました。
「ボク、おとうさん呼んでくるね!」
そのころ、お父さんはアキラくん用タンスの前に座り、アキラくんに穿かせる真っ白なタイ
ツを探していました。長袖のネルシャツと白いタイツの上から黄色のぷーちゃん着ぐるみを着
せ、それから半纏と靴下と長靴で防寒対策はバッチリです。もちろん手袋とマフラーと帽子は
必須なのですが、それらは既にコタツの中に入っていました。
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12-891 :のんびり屋sage :02/08/12 21:25 ID:???
「明子は…確かここにいれていたはずなんだが……」
お父さんはゴソゴソとアキラくん用タンスを漁っています。アキラくんのタンスの引き出し
の中はパンツもシャツも全部真っ白なので、洗濯物に慣れていないお父さんはもう何が何やら
訳が分りません。
「あれが旅行に行く前に、聞いておくべきだったな」
お父さんは呟いて、ガコンと引き出しを閉めました。溢れかえったアキラくんのおパンツが
少しはみ出ているのはご愛敬です。
何気なくお父さんが一つ上の足袋専用引き出しを開けてみると、整然と並べられた白や黒の
足袋の隙間に、丸く畳まれたアキラくんの厚手の白いタイツを発見しました。
「ああ、あったあった」
小さく畳まれたタイツは握り締めると丁度いい感じに弾力があり、手のひらのコリが解され
ていくような気がします。お父さんはしばらくグニグニとアキラくんのタイツを握り締めて、
手のひらをリラックスさせるのに夢中になってしまいました。
「あっおとうさん!」
そんな時です。てててててっと小さい足音が聞こえてきて、アキラくんが鉄砲弾のようにお
父さんの膝裏に抱き着いてきました。お父さんは膝がカックンとなるのを辛うじて堪えます。
「おがたくんが、たいへんなの!」
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緒方さんのおでこに手を当てると、アキラくんのお父さんは眉を顰めました。
「ひどい熱じゃないか」
「……すみません」
「いや、謝らなくてもいいんだが」
お父さんが手を退けると、正座したお父さんの隣に座っていたアキラくんもすかさず小さな
右手を緒方さんのおでこに乗っけます。そして難しい顔をして左手で自分のおでこを触り、今
度は伸び上がってお父さんのおでこに触りました。
「おがたくんだけあついねぇ」
本当に判っているのかいないのか、アキラくんはいっちょまえにそんなことをコメントして、
小さな自分のおでこを緒方さんのそれにごっつんこさせます。寄せる波のように緒方さんを苦
しめていた頭痛はその衝撃のせいか一層強くなりました。
緒方さんは内心困ってしまいます。
「こら、緒方くんが迷惑するだろう」
その困惑を感じ取ったのか、お父さんはひょいとアキラくんを持ち上げると隣に座らせました。
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